Secret Operations
裏山を駆け下りる途中で小学校の様子を見たが、案の定異常に静かだった。一階の窓から中を覗いてみると、中にはゾンビと犬のゾンビが数体いた。その様子を見て、一階は壊滅的であると見た私は、二階から調べてみる事にした。幸い、近くには樹木があり、それを使えば楽に登れそうだった。
無事に二階に登ると、周囲には数体のゾンビがいた。ホルスターから『グラッチ』を取出し、ゾンビの頭部を狙って一発ずつ確実に当てていった。そのゾンビは一般人が変異しただけのゾンビだった事もあってか、1〜2発程で倒れた。辺りには、頭部に弾痕を残したゾンビが横たわるだけだった。ゾンビを始末すると、耳を澄ませて周囲の音を聞こうとしたが、何の声も聞こえない。全員B.C.W.に殺られてしまったんだろうか。
私は、慎重且つ迅速に周囲を調べ始めた。本来はこんな事をしてはまずいのだが、本当の目的を達成する為には、ここは蔑(ないがし)ろに出来ない。少々危険を冒しても、調べる必要があるだろう。
……それから数十分が経った。2階3階と調べてみたが、ゾンビとゾンビ犬だらけで、生存者は一人もいなかった。しかも、数が尋常ではなかったので、探索を諦めざるをえなかった。一階を調べるのは気が引けたが、一階には職員室や体育館など、避難できる場所があるので、生存者がいる確率は高い。しかし、私の存在は極力誰にも知られたくない。少なくとも今の段階では。だから、もし生存者と遭遇した場合は、私の正体を悟られぬように振舞わなければならない。
――私はそう考えながら一階に下りていった。一階に下りると、周囲に数体のゾンビがいた。私はそれを、さっきと同じ要領で始末し、探索を進めた。最初に、職員室に生存者がいないかと覗いてみたが、ゾンビだらけで生存者がいるようには見えなかった。次に、体育館を調べてみる事にした。体育館なら、広さとしては充分なので、武器さえあれば何とか凌げるだろう。生存者もそこに集まっている可能性が高い。体育館は北舎にある。そして今私がいるのは南舎だ。つまり渡り廊下を使って、北舎に行く必要がある。些か遠いが仕方が無い。ゾンビをあしらいながら行くしかないな。
そう思って、渡り廊下を通り北舎に行こうとしたが、予想に反して、ゾンビは殆どいなかった。やがて、体育館の前まで来た。私は慎重に体育館の扉を開けた。体育館の扉を開けると、数人の生存者がいた。そしてその中には、意外な人物もいた。それは、出木杉君だった。出木杉の任務はのび太君の家の護衛だった筈、彼のことだから、何か理由があるんだろうけど……。
「お前は誰だ。何故ここにいる」
自衛隊員と思われる男がそう言った。
「一応ただの一般人よ。化け物から逃げてる途中で此処に辿り着いたわ。持ってる銃は、倒れてる人たちから拝借したものよ。あと、服装についてはノーコメントで」
私は自衛隊員にそう言った。
すると、傍にいた一人のSAT隊員が言う。
「そうか。こんな状況でよく生き残っていたな。 此処も危険だけどな」
その男がそう言うと、私も口を開いた。
「……ここら辺に安全な場所が無い事は解っているわ。それで、救助隊は何時頃来るのかしら?」
「明日の0時だな。それまでに此処の屋上までの道を確保せねばならん」
……確かに、あれだけの量の生物兵器を捌くのは一人や二人では無理ね。何とか協力するしかないわね。
「……名を名乗ってなかったわね。私はレナータ・ロマノヴナ・ウヴァチャナ。ナーシャって呼んでくれればいいわ」
私が名を名乗ると、先程のSAT隊員が言う。
「そういえばこっちも自己紹介が済んでなかったな。俺は安藤雅義で、こっちの無愛想な自衛隊員は山本誠司だ」
SAT隊員がそう言ったのを皮切りに、他の人たちも自分の名を名乗った。と云っても、数人の警察機関の人達や武器を持っている人達だけだったが。
やがて、軽い自己紹介が終わると、自衛隊員……確か山本誠司と云う名の筈。その人が話し始めた。
「まだ時間はあると言っても、二階や三階は奴等の巣窟だ。想定しているよりも梃子摺ると思われる。よって、今から少しずつ奴等を殲滅していく。最初は、俺と雅が行く。他の連中は非常時に備えろ。いいな?」
山本はそう言うと、安藤を連れて体育館を出て行った。それを確認すると、出木杉君に近づいていった。
「出木杉君。何で貴方が此処にいるの? 貴方は別の任務が与えられていた筈よ」
私は、他の人に聞こえない様に小声でそう言った。
「こっちもいろいろあって対応できなかったんだよ。こんな状況じゃもう戻れないし」
「……まぁ、のび太君も素人じゃないんだし、何とかするだろうから大丈夫だとは思うけどね」
「――――――そういえば、金田は今何をしているんだ?」
出木杉君が神妙な顔つきでそう言った。
「さぁ? 金田が何処に行ってるかなんて私にも解らないわ。……で、何があったの?」
「……学校の三階南舎に金田がいたんだ。君なら何か知っているんじゃないかと思ってさ」
「…………私も金田の詳しい作戦内容は知らないからね。そこの所は解らない」
よくよく考えてみると、さっき金田と会話していた時に、金田の作戦内容を聞き出しておけば良かったと思った。
「でも、大方B.C.W.の性能を見たかったんだと思うけどね」
出木杉君はそう言うと、金田が学校に現れた直後に、パーフェクションB.C.W.が現れて虐殺をした事を説明した。あの時金田が言った事はこの事だったんだろう。
その後は特に話もせずに、山本と安藤を待った。
やがて20分程経つと、その二人が戻ってきた。そして、その場にいる全員に話す。
「一通り一階を見て回ったが、数体の怪物が居た。一応全ての怪物は殲滅したが、一階の幾つかの教室は窓が破られているから、やがて怪物が乗り込んでくるだろう。よって、拠点を二階に変える事にする。しかしながら、二階にも大量の怪物が居る。そこで、戦える者を総動員して、二階の探索を行いたいと思う。この中で戦う意志のある者は前に出てきてくれ」
安藤がそう言うと、何人かの人が前に出てきた。その中には勿論、私と出木杉君も居る。
「――これで全員か。割と少ないな」
そう言ったのは山本だった。集まったのは、私や出木杉君、安藤と山本も合わせて六人だった。
「それでは、二階の探索について説明する。一回しか言わないから一言一句漏らさずに聴け。二人一組で行動する。チーム分けは、こちらで勝手に決めさせた。一組目は俺と安雄、二組目は安藤とはる夫、三組目は出木杉とナーシャだ。出来るだけ戦闘力に差が無いように子供と大人を混ぜたが、これで文句は無いな?」
山本がそう言うと、誰も異存はないようだった。
「よし、それじゃあ分担を決める。探索する場所は二階から始めるが、二階といってもそれなりに広い。北舎の探索には一チーム、南舎の探索には二チームをあてる。北舎の方には俺と安雄のチームが向かう。他の二組は南舎を効率的に探索だ。異論がなかったら今すぐにでも行動するぞ。」
山本がそう言ったが、誰も異存はないようだった。
作品名:Secret Operations 作家名:MONDOERA