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夢で逢いたい

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滝沢は咲たちと分かれた後、亜東財閥のAI(人口知能)研究所で、亜東の孫娘ユーコと共に、日本中のニートたちが意見参加できるクラウド・システムを構築するプロジェクトを進めていた。むろん亜東本人とユーコと限られたスタッフにしか知らされていない極秘プロジェクトだ。滝沢がアイディアを出し、プランをたて、テクニカル面はユーコたちAIに詳しいスタッフが進めていた。

滝沢が咲たちと分かれた夏からもう半年がたっていた。季節はめぐり、すっかり冬である。研究所の周りにも雪が積もることが多くなっていた。

ある日、研究所の自動販売機にもたれてコーヒーを飲んでいた滝沢のもとに、ユーコが来て、一つの封筒を差し出した。

「?なにこれ?」
「クリスマスプレゼントです、滝沢さんへの」
「へ?」

滝沢はユーコの顔を不思議そうにみながら、封筒をあける。中から、十数枚の写真と2枚組のレポートが出てきた。写真は・・・咲の写真だった。

「ユーコさん・・これって・・・」

「咲さんの最近の様子を極秘に調べさせました。何か困ったことになっていないか、元気かと。滝沢さん、気になっているのではないかと思いまして・・・」

「咲・・・」

写真の中で、咲が笑っている。
みっちょんやオネエと一緒に笑っている写真もあった。
平澤と一緒にお茶している咲の写真も。
一人駅にたたずんでいる写真も。

「咲さんはお元気だということです。再生した東のエデンの仕事をがんばっているそうです。たびたび豊洲のオフィスで徹夜することもあると。でも、お元気なようです。そのレポートに書いてありますが。今月風邪をひいて2日ほど寝込んでいたようですが、たいしたことはなかったそうです。」

「そう・・か・・・」

「余計なお世話だったらすみません。でも、お知りになりたいと思って。咲さんの近況。もう半年もお会いになっていませんし・・・」

滝沢は咲の写真を見つめ続けていた。

「あの・・・滝沢さん?・・・余計なことでした?」

「あ、いや・・・ユーコさん、ありがと。俺に気をつかってくれて。そうか、咲、元気なんだね。よかった。」
「はい。こちらはすべて差し上げますので、どうぞお持ち帰りください」
「うん・・ありがと。」

滝沢はユーコに笑顔をむけて、写真とレポートを封筒に戻して立ち上がった。

「俺、今日はちょっとこれで帰っていいかな?とりあえず、今日、俺のできること、なさそうだし。何かあったら連絡して?部屋にいるから」
「あ、はい、もちろんです。連日お疲れ様でした」

滝沢は研究所の横にある寮の一室に寝泊りしていた。寮といってもその設備はさすが亜東財閥だけあってホテルなみだが。


ユーコは滝沢の妙に静かな反応が気になったが、そのまま滝沢を見送った。


滝沢は自分の部屋に戻って、もう一度咲の写真を見直した。

笑ってる咲。
話している咲。
誰かのことを見ている咲。
中には・・・滝沢の知らない男と楽しそうに話している咲の写真もあった。

「咲・・・」

滝沢は写真に指をのせて、咲の顔をなぞった。まるで、そうすれば、咲のぬくもりを感じられるとでもいうように。

俺のいないところで。俺のいない時間で。
咲は生きてる。生活してる。
当たり前のことで。咲が元気でいてくれてうれしい。でも。
何だろう、このさびしさ。
自分がいなくても、咲の毎日は進んでいる。何の問題もなく。咲は他の人たちに囲まれて、笑って、日々を暮らしている。

半年前に、咲の前から再び姿を消したのは自分だ。再会を約束しながらも、しばらく咲と会えない日々を選んだのは自分だ。
だから。俺がいないところで、咲が元気に笑顔で暮らしてることを、祝福すべきで。喜ぶべきで。
咲のために、よかったって思うべきで。

それなのに。

俺、さびしいって思ってる。

俺がいなくても咲が笑えること。咲が何の問題もなく日々を送っていること。
俺は、さびしく思っている。

「俺って、ちいせえな~」

滝沢は一人つぶやいて、写真をとりまとめた。

「あれ?」

一枚、封筒の中に写真が残っていたようだ。

その写真は・・・豊洲へ向う定期船の発車場で、海を見ている咲の横顔だった。その横顔は、すごく、さみしそうで。遠い目をしている。

(咲・・・あの場所で・・・)

ワシントンから日本へ帰ってきた日。二人でこの場所で定期船を待ってた。そして定期船の上から俺は咲に手を延ばした。咲は俺の手をつかんで、俺についてきてくれた。そして二人のアドベンチャーは始まったんだ。

ああ、咲。
咲は俺のこと、思っていてくれるよね。だから、この場所にまた来てくれたのだよね?今の俺のように、あの時のこと、思い出して・・・。

咲は、まだ、俺のこと、待っていてくれるよね?あの夏の日の約束、覚えていてくれるよね?俺にくれたあのキス。ウソになっていないよね?


(咲・・・)

視界がにじんでくる。

(あれ・・・俺・・・涙・・・?)

咲の写真が、どんどんぼやけてくる。

(会いたい・・・。咲、俺、咲に会いたいよ。)

君の手を握りたい。君に触れたい。君を抱きしめたい。君にくちづけたい。くちづけされたい。信じてるって。じかにいわれたいよ。

窓の外を見ると、いつのまにか雪が降り始めていた。

「ふう・・・・」

滝沢は大きく息を吐き出した。


もう少し。もう少しなんだ、咲。
俺がこんなさみしさを抱えながら。それでも、ここでがんばってる理由。
咲にさみしい思いをさせながら。それでも、咲から離れて、がんばってる理由。
それは、すべて。
究極的には、咲、君のため。
咲につらい思いを抱かせてる、それだけの価値がある時間だったと。
待っていてよかったと、最後には思ってもらえる時間であるように。
俺のこと、信じていてよかったと、咲に言ってもらえるように。
俺の力なんてほんの小さなものだけど。
運命がくれたチャンスを、俺は逃したくない。
もしかすると、俺たちの国を大きく変えることができるかもしれないチャンスを。
少しでも、みんなが前を向くことができるチャンスを。
そして、そんな俺を。信じて待っていてくれるヒトがいるんだ。

咲。
帰る場所があるから。待っていてくれるヒトがいるから。
愛してくれているヒトがいるから。
・・・愛してるヒトがいるから。

だから、がんばれる。

咲。

咲。

もう少し、もう少し、待ってて、咲。
それまでは、せめて。

咲、夢で会いたい。今夜、夢に出てきて、咲。
夢の中で、君に触れたい。君にキスしたい。
せめて、夢の中で。
俺たちはひとつに。


作品名:夢で逢いたい 作家名:なつの