アノンの父親捏造まとめ
いつからこうなった?
「ヴィノン…寝かせてくれ」
年が明けてすぐに、マーガレットはそう言っていた。元日の0時を回ったところだ。
「…だーめ」
少し間があって、サドっ気に満ちた声が返される。
「なんで、…ん…っ」
ふいに強く握られて、思わず反応してしまう。髪の長い地獄人が悦ばしげに笑った。
喘ぎつつ考える。
いつからこうなった?
こんなこと、いつから始めた?
「―――冬の始めだよ、最初のは」
彼はよく憶えていた。
「そう、だったか…でも、最近、」
「ああ、最近増えたかな。…ごめんねマーガレット、痛い?」
彼はそういって苦笑した。
ヴィノンの笑い方は、直前と最中はぞっとするほど攻撃的なのに、終わると妙に優しかった。マーガレットの中で快感とともに煽られた恐怖心は、いつもこの優しさにかき消されて無くなる。
「もう、慣れたよ」
「本当に?嫌じゃないの?」
「うん。…いや、最初は本当に、嫌だったんだけどね」
息を整えながら、彼の眼の奥を覗く。
「君が…淋しそうにするから」
「…マーガレット、」
気づいてたんだ。
「ごめん、私…私は、」
淋しかった。
「冬が…寒くて苦手で、マーガレットは、温かいから…」
マーガレットはヴィノンの震える声を、うん、うんと頷きながら聴いていた。
彼が欲しているのは、いや彼に必要なのは、本当は“あんなこと”ではないはずだった。
それより誰かが彼に「愛している」と一言伝えることのほうが、何倍も早く温かくなるのだということを、マーガレットは薄々気付いていた。
しかしマーガレットは彼と深い関係を持っていながら、まだその「誰か」が現れるのを待っていたのだ。彼に―――ヴィノンと名乗る地獄人に本当に必要なのは「誰なのか」など、この時は考えもしなかった。
「うん…。僕も、冬は苦手だ」
だからそう言うしかなかった。本当は初夏の方が厭なんだけどね、と付け加えながら。
作品名:アノンの父親捏造まとめ 作家名:たつき紗斗