あの音楽の中で集まろう
何でこんなことを言い出したのか俺にもどうにも分からない。
人生初の大舞台が、怖かったのかもしれない。
「このパーティーも、俺も、あなたも、気のせいなんじゃないかなあ、って、思ったんです」
へろへろになった靴紐と見つめあいながら、組んだ手の親指同士をくるくる回しながら、一生懸命言葉を選ぶ。
落ち着きの無い心臓を深呼吸でなだめて、どう言えばいいのかなあと考える。
神様さんはずっと腕を組んだままで何も言わないでいる。
どんな顔しているかは見えないけれど多分呆れて笑っているんじゃないかなあと思った。
舌も頭も上手に回らない俺の言葉なんて、きっと神様さんからしたら凄くとてもしょうもないんだろう。
「沢山楽しいなあと思って、拍手をして、そして、このパーティーが終わって、家に帰って、寝て、起きたら、きっと俺以外の皆はパーティーがあったことなんて忘れてしまって、皆に聞いてもきっと何を夢見たいなことをと笑われて、俺はあなたから貰った招待状を必死に探すんですけど見つからなくて、そして最後にはどうにかしてあなたを探そうとするんですけど……きっと、あなたは、どこにもいない。そんな気が、するんです」
歓声が聞こえる。
遠く遠くのステージに見えるローラさんが光線銃を天に翳して何だか物騒な言葉をまくし立てている。
もうすぐ、次の曲が始まる。
「…………申し訳ありません」
「え、何が?」
「折角こんなパーティーに誘っていただけたのに、こんな馬鹿なこと聞かせてしまって」
「コラ」
とても短いその言葉は鋭角に俺に響いた。
ああ、怒らせてしまった、のかなあ。
だったらもう黙っておこう何も言わないでおこうそう思ったのだけれど。
「バカじゃねえよ」
「え?」
顔をあげる。
神様さんは、何故だかにやにや笑っていた。
「なあ、このパーティーが何回目か知ってるか?」
「え、えと…………16回目、でしたか」
「おうよ、じゃあ何で、このパーティーが何回も何回も開催されてるか分かるか?」
「………………勢い?」
「お前実はちょっと面白いな。いやまあそれも間違っちゃあないけど、勢いだけじゃここまでは続かねえよ」
一生懸命考えたのに面白いと言われるのは少し悲しい。
けれど神様さんは笑ってくれたので怒ったわけではないのかなあ、とか、なんとか。
アタシより可愛いハニーもアタシに振り向いてくれないダニーも皆みーんな一切合財素敵に無敵にぼがんどかーんって爆破しちゃえばいいのよー!
マイクがハウリングする勢いでローラさんが絶叫する。
神様さんは目を丸くしてステージの方を見て、今回の面子もヤバイなー面白いなー、と。
俺はともかくローラさんは間違いなく面白いと思う。
「別にお前だけじゃないんだよ、そう思うのは」
「ローラさんが面白いことがですか」
「いやそっちじゃなくて。パーティーが夢のようだ本当は嘘なんじゃないか、っての」
「……そうなんですか?」
「おう。だからまたやろう集まろうって話に自然となるんだよな。で、気づけば十周年」
「皆そういうものなんですか」
「そりゃあこの俺が厳選した面子が集結するんだから楽しいに決まってるよな。そしてそれが終われば寂しい。あんまり寂しいから夢だ幻だって思わないとやりきれない。それでもやりきれなくなったら一緒に参加した奴らと集まって、で、誰かが言い出すんだよ、『またやりたい』って。それの繰り返しなんだよな」
「……神様さんも、寂しいんですか?」
「もち」
「……神様なのに?」
「おま、バッカ、お前なあ!」
背中を勢いよく叩かれてちょっとよろめいて、そのまま肩にどんっと重みを感じて転びそうになった。
でも転ばないように踏ん張って、ぱっと横を見るとサングラス越しに神様さんと目が合った。
後ろから肩に回された腕の力は吃驚するほど強い。
でもそれよりも紺色のレンズの向こうに見えた目がきらきらしていて、何故だかそれがとても嬉しくて。
「寂しいに決まってるだろ! だってお前らの音楽、サイコーなんだから」
ずっと聴いときたいよ。ずっと、ずっと。
そう言ってきらきらと笑う人。
この人の『お前ら』の中に俺が入れてもらえたことが、とてもとても嬉しくて。
「あの、……差し支えなければ、今後とも、よろしくお願いします」
笑った。
(そうして、終わらない音楽がまた一つ)
作品名:あの音楽の中で集まろう 作家名:チハヤトキ