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すずきたなか
すずきたなか
novelistID. 3201
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朝焼けトリビュート

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別段寝苦しかったわけでもない癖に、俺は五時前にばっちりと目を覚ました。欠伸は止まらないが寝る気にもなれない。ベッドの上で十数回寝返りを打ちつつ携帯をいじっていたところで、ようやく諦めて起き上がった。部屋の中は薄暗いが、これはカーテンを閉めているせいだろう。実際開けてみたら、外から光がぼんやり差し込んできたし。
「っても朝焼けか」
俺はのろのろ頭をかきながら、とりあえず顔を洗ってリビングに出た。目の下が腫れているような気がしたが、昼寝でもすれば直るだろう。
すえたにおいがこもっているはずのリビングは、わずかだが風が通り爽やかな朝の雰囲気を醸し出していた。昨日の夜開けっ放しにして寝てしまったのかと思ったが、あのマカがそんな失敗をするはずもない。
「ん、おはよーソウル」
「はよ、てか何、お前徹夜したん?」
窓枠に寄りかかるようにして立っていたのはパティだった。開けた窓の向こう、よたよたと昇ってくる太陽を眺めている。服装は変わらず昨日の夜のままだ。
パティはうーんと伸びをして、いやいやと手を振った。
「寝たよぉ、けどさ、やっぱソファーだしね、下に転がって起きちゃった」
「転がり落ちたってな……だからベッド貸すって言ったろ」
ちなみに姉妹のもうひとりは今頃マカのベッドの中で寝息を立てていることだろう。さすがに男の俺がパティと一緒に寝るというのは不可能なので、大人しく来訪者にベッドを譲る覚悟はしていたというのに。
「いーよいーよ。他人のにおいがするベッドって何か落ち着かない」
「そんなもんか」
「嘘だけどね?」
「どっちだよ!」
「むにゃ?なになに、ソウルは私と一緒に寝たかったの?今からでも一緒してやっていいんだぜ〜?」
パティはにやにやと似合わない笑いを浮かべて顎の下に手を当てた。組んだ腕が胸を挟んで、妙にそこだけ強調される。俺はぶんばと顔をねじ曲げた。
「誰が寝るかっ!そこの色猫みてえなこと言うな!」
「冗談だよ、ジョーダン。ていうかブレアはそんなことするんだね?」
ブレアは猫の姿でリビングに置かれたかごの中にいた。話は聞こえていないのだろう、大人しく眠り込んでいる。このアパートに来たての頃は、俺かマカを問わず全裸で布団の中に潜り込み、俺を大いに慌てさせたものだ、まあそんな経験はどうでもいい。
パティはふーんと目を丸くすると、再び外を眺め出した。どうやら朝焼けを眺めているらしい。今の会話で眠気が消えた俺は、かといって朝食の準備やらをする気にもなれず、パティの後ろのソファーに座った。パティは特に身動きもせず、ずっと外を眺めている。
「朝焼けだねえ」
「朝焼けですな」
「私朝焼け好きなんだよね。この異常な真っ赤っ赤っぷりが好き」
「そっか?俺は落ち着かなくなるんだけど」
「落ち着かなくなるのがいいんだよ。こうね、不安定な気持ちになるのがいいんだよー」
パティの趣味は俺には分からない。生返事で頷くのも違う気がしたが、かといってうまい返事も浮かばなかった。
「何でンなもんが好きなの?」
「不安定なのって気持ちよくない?私はこう見えて意外にセンサイなんだな〜」
発音うまくいってねえぞ、とは黙っていることにする。パティのアクセントはたまに妙にずれた位置にあって、俺達やリズとも違う言葉になるのが面白かった。とはいえ、パティが繊細だったら、マカなんか触れただけで木っ端微塵になりそうだな。
「……ん〜、キッドくんもいないしねえ」
「…………」
俺の沈黙はまだ続く。どこら辺で相槌を打ったらいいものか、まだ見当がつかない。パティに任せる。
「一緒にいた期間は短いのになー、やっぱりシンメトリー癖が移っちゃってるみたいでね、お姉ちゃんとだけじゃうまく行かない気がするんだよね〜」
ひひひ、とパティはいつもの笑いを浮かべ、くるっとこちらに振り向いた。ひとり掛けソファーの背もたれ、つまりは俺の頭の後ろに、手を組んで顎を乗せる。パティがこんなに小さい声で喋るのは珍しい気がする。
「あのお屋敷に私達だけで寝るのも違う気がするし、合ってないんだよな、色々。もー、やる気ないっ」
「だから人ん家に泊まりまくってると」
「明日はオックスくんとこに行ってみるんだよ〜、本邦初公開!ってことでちゃんとビデオとか写真とか撮ってくるから!」
「き、興味ないからそんなことはしないでやってくれ……」
オックス・ハーバーペアに思うところなど何もないし、変な描写を見せられて今後の学校生活にヒビが入るのも嫌である。私的にはキリクのところが一番気になる私生活ではあるが(幼稚園状態?)、そんな脇道はさておき。
パティはさっと後ろから離れると、ふああ、などとわざとらしい欠伸をした。
「うー、やっぱ眠いかも」
「寝ればいいじゃん」
「今日三日目だから人ん家で寝るのはなあ」
う、と露骨に顔をしかめた俺が面白かったのか、パティは一度離れた癖にわざわざ戻ってきて、背をかがめた。何が三日目かは聞く気もない。
「女子は大変なんだぜ〜?マカも苦しんでるでしょ?実はお姉ちゃんも重くてねえ、私はだらだら流れるだけだからいいけどねー」
「ぎゃーそういう生々しいのは聞きたくねー」
「何だよお、ソウルだって、戦ってる時にマカが足から血流してたら心配するでしょ?」
「うええ、想像しちまった……」
「どうして男は生理の話が嫌いなんだろうねえ?とまあ、今のは冗談だったりして!嘘だよ〜何もなってないよ!」
朝からげんなりして、ようやくパティは俺から離れた。眠いのは冗談ではなかったらしく、隣のソファーにふらふら腰を落とすと、まばたきもしない内に寝入ってしまった。時間を見ると五時半である。今から二度寝したとしても、十分授業には間に合う時間だった。パティは授業をサボったことがあまりないようで、マカや椿とよく一緒にいるのを見た。理由は知らないが、きっと学校というものに考えがあるんだろう。サボったりしないのもその一環だろうか。
ふああ、と俺もつられたのか欠伸をしてしまう。ここでベッドに戻ったりしたら、確実に寝坊のち遅刻なので、マカに叩き起こされないように、俺もソファーでまどろむことにした。開いたままの窓からは日差しが差し込んで、頭が熱くなってくる。朝焼けだったのに、この太陽はどういうことだ、とかって突っ込みを入れつつ、俺は目を閉じた。