黒バス小話
ついこの間まで寒くてかなわなかったってのに、今日の空は夏か!と言いたいくらいに青い。暑い。
これも地球温暖化の影響とかいうやつか。だとしたら俺も少しは省エネに貢献してもいいかもしれない。エアコンの温度2度くらいなら妥協してやる。
「おい」
蚊まで飛んできやがった。本当に春か。お前は夏まで出てこない生き物じゃないのか。引っ込め引っ込め、俺の血は不味いぞ。
「おい高尾」
しかしこんなにいい天気なのにその辺をうろついてるのが犬だけってのはどういう了見なんだ。そこの角を曲がれば可愛い女の子がぶつかってきてロマンスが始まる展開くらいあってもいいじゃないか。あわよくば
「話を聞けと言っているのだよ」
「ああもううるっせえよ大体誰のせいで俺が通常の3倍くらい暑い思いしてるとお考えですか!」
「いつまでもジャンケンに勝てないお前のせいだろう」
「そうだけどそうじゃねえよ!」
ていうかおしるこ飲んでんじゃねえよ暑苦しいな!
「おしるこはいつ飲んでも美味いぞ」
「あーはいはい」
会話するだけ無駄だった、というか労力を使うだけだった。
ガラガラと音を立てて汗水垂らしてリヤカーを引く俺にとってはかなりの痛手だ。後ろにふんぞり返ってやがる占い大好きメガネくんは陽気な会話を楽しんでいるのかもしれないが。いやごめん陽気なこいつは気持ち悪い。
「ところでお前は話を聞く気がないのか」
「今すぐ運転手交代しようっていう話なら聞く」
「そうか」
「…」
「…」
「…」
「…」
「……いや言えよ!」
気になるだろ!と言えばお前が聞かないと言ったのではないか、と小馬鹿にした目で見られて無性に腹が立った。明日の運勢かに座最下位になればいいのに。
「で?」
「そこのコンビニで停めてくれ」
「へいへい」
仰せのままに、とばかりに言う通りにしてやる。丁度自動ドアから出てきた小学生が目を丸くして、友人であろう輪の中に駆けていく。おい見ろよあれリヤカーだぜ、マジかよダッセェ、なんて一人脳内アフレコ。寂しい。多分そう間違ってない。
「路頭に迷ったサラリーマンのような目をしているのだよ」
「やかましいわ!用事済んだのかよ」
「ああ、ほら」
「は?何」
「栄養補給が必要だろう」
帰りにへばられては困るのだよ、と相変わらずの上から目線で差し出されたのは暑い日の定番、アイスクリーム。パキッとやるあれだ。
もしかしなくても多少の気遣いのつもりか。つもりだろうな。さっさと荷台に乗ってるあたり全く感謝の念を感じないけど。
「真ちゃーん」
「何なのだよ」
「ほれ半分」
「おしるこに合うとでも思っているのか馬鹿め」
「これ一人で食うのはルール違反なんだよ」
「アイスにルールがあるのか」
「あるある」
フンと鼻を鳴らして、ならば仕方あるまいと受け取るのを見送ってから自分の分のアイスに手をつけた。後ろから温度差が、とぼそっと聞こえるのが微妙にウケる。まああれだ、明日のかに座の運勢は11位くらいで許してやるのだよ。