どれ程貴方を想っても
自分たちは今日も持て余しながら何食わぬ顔で貴方に接する
叶わない想いだと知っているからこそ、笑顔で
「獄寺、俺のとこは無事終わったぜ」
「あぁ、こっちももうすぐ終わる」
蒼白な顔で自分を見上げている男の眉間に銃口を向けたまま、入口から顔を出してきた相手に淡々と答える。
「残ってんのソレだけ?」
カツン、とわざとらしく足音を立てて近付いてくる山本に、目の前の男は小さな悲鳴を上げた。
先代の血を引いてるとはいえ、年若い日本人が組織の上に立つことが気に入らなかったのだろう。10代目の劣勢を批判的な態度で指摘し、結果その価値が下がり始めた事で、自分は有能だと勘違いした馬鹿な男の欲の皮が突っ張った結果がこれだ。
「待ってくれ、頼む!お前たちには相応の地位を与える!金でも女でも何でも用意する!お前たちだって本当はあんな」
同じ空間に居るというだけでも吐き気がするというのに。見苦しく喚き散らす男の眉間と喉にそれぞれ一発ずつ打ち込むと、言葉にならない悲鳴を最後に漸く静かになった。
「最後の最後まで苛付かせる野郎なのな」
「まったくだぜ」
口が堅く、尚且つ十分に信頼できる部下数名に後の処理を命じて山本とその場を後にした。10代目に盾突こうとしていた無能な男とその部下は今日、『不慮の事故』で死ぬことになる。
あんな野郎にさえ、忙しい時間を割いて理解し歩み寄ろうと努力なさっていた心優しい10代目。貴方がそこまでする必要なんて何処にも無いというのに。
「あー…なんか無性にツナに会いてぇ」
言いながら山本が空を仰ぐ。自分も同じように空を仰ぐと、視界いっぱいに広がる碧空と雲の峰。どこまでも澄み切った空は今の自分には少しばかり眩しくて、静かに視線を戻した。
title by 涸れる空 (http://sky.leere.biz/index.html)
作品名:どれ程貴方を想っても 作家名:ケイナ