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じょうたいいじょう

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夜も深まり団員達が寝床へ帰る頃、キョウの部屋にノックの音が響いた。
部屋を訪れる者は一人しか思い当たらない。キョウが確認もせずに鍵を開ければ、予想通りの男が入ってくる。
「挨拶もなしか」
鍵を掛け直し、不満げにキョウはマチスを振り返り、ドアへもたれた。マチスはわざとらしく肩をすくめてみせる。
「そういうお前はそれが挨拶代わりか?まぁいいや。コンバンハ、オジャマシマス。…それともイタダキマス、か?」
そうおどけて、マチスはキョウの顔の両脇にそれぞれ手をついた。
ドアと自分の大きな体の間に閉じ込められたキョウの足の間に、マチスは膝を割り込ませる。
「下品な言い回しだな。…それにいきなりか、猿め」
「他にすることなんざねぇだろう。ムードでも作って欲しかったのか?」
マチスの無骨な手が赤い襟巻の下に滑り込む。指の腹でキョウの年相応にくたびれた首の皮膚、ないしその下の張りのある筋肉の感触を楽しんだ。
キョウは不快そうに眉をひそめその手をどかそうと太い手首を掴むが、腕力ではマチスの方が圧倒的に上でびくともしない。
マチスはにやつきながらキョウの耳に唇を近づけ、低くI love you.そう囁いた。
ふざけて発せられたそんな台詞に何も感じ入るところなどはなく、むしろその安っぽい響きに呆れて溜息を一つ吐き出す。
なぜ自分は、このような下品な男に部屋への侵入を、さらには身体への下卑た接触までもを許しているのだろうかと考える。
暇つぶしにしても、四十過ぎの男がするには悪趣味がすぎるな、とキョウは自身への溜息を、もう一つ。
ふと目をあげると、マチスの顔が近かった。キョウはマチスの口元を手で遮る。
「キスは無しだ」
マチスは片眉をあげてその手を剥がし、強引に唇を重ねる。
腕力では敵わないのだ。キョウは抵抗を諦め、軽く口を開いて歯列をなぞる舌を受け入れた。
「何故」
唇が離れる。満足そうなマチスの目が腹ただしく、キョウは文句を言った。
「何故貴様は、そう無遠慮なんだ」
「うん?」
「ずかずかと入り込んで」
何言ってやがる、そう言いながらマチスはオーバーに両手を広げた。
「内側に入り込んで侵していくのはお前の得意技だろ?毒使いさんよ」
「…俺がお前に仕掛けていると?」
意外であった。強引なマチスの"攻撃"に流されるように体を重ね、惰性で恋人じみた関係となった。そう思っていた。
気付かぬうちに自分から"攻撃"をし、それが効いたためマチスは"毒"に侵されたように自分に執着している、そういうことなのだろうか。
心底不思議そうにキョウに見つめられ、は、と何かに気付いたマチスはそれ以上キョウの思考が深まらぬように言葉を繋いだ。
「さぁな。でもこっちは痺れさせてやるぜ。電気といえば"麻痺"だ」
痺れさせてやる、というフレーズにキョウは思わず失笑する。
「どこでそんな台詞を覚えるんだ」
「答えたら嫉妬することになるぜ」
「阿呆か」
話しつつ、マチスは再びキョウの自由を奪うようにドアに手を付いた。
今度はどちかともなく唇を寄せて二度目の口づけを交わす。
脳に駆け上がるものは、なるほど確かに微力な電流に似ていた。
「…どこで覚えたか、といえばな」
「あん?」
唇が離れた瞬間に、キョウが呟いた。
早くベッドへ向かいたいマチスは雑な相槌を打ちながらも、何かを見つけたように余所を向いている瞳につい、見入っていた。
「お前、"恋の毒"という言葉を知ってるか」
言ってから視線を戻したキョウは、マチスの表情を見て、笑った。




作品名:じょうたいいじょう 作家名:ぼたん