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フレンドボーイ42
フレンドボーイ42
novelistID. 608
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Chain Car

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 この道は本当のモノクロームに覆われているようだ。僕は黙って自転車をこぐ。考えてしまうと、もう駄目だった。考えずにぶち当たるしかなかった。考えれば考えるだけ空転してしまう。もう夕暮れ時。眩しい日の光は、低い位置になって初めて自分の存在感を見せる。もう、あきらめるべき時ほど、赤く赤く。そうだ。あきらめの時こそ、最大の力がにじみ出る。だから。一回に全てをかけて、投げ捨てる覚悟をした。一回しかないのだ、そのチャンスは。
 今まで、何でもあきらめる人間で、考えた挙句、実際に振られたわけでもないのに、あきらめてうなだれて、沈んでしまった。沈みすぎてはいあがるのに何度も何度も苦労することになった。『そんな苦労ができるならば、そのエネルギーを何か別のほうに込めてしまえばいいのに』と、僕なのか、それとも誰か別の人間なのか、とにかくそんな声が届く。僕の深層に響こうとする音を、しかしそのたびに反発のノイズで打ち消してきた。
 『好きな人がいる。好きな人を思う。それだけでいっぱいになってしまう』、ってよく恋愛小説家は小説に似た表現を使う。それがよくわからなかった。皆本当に恋愛したことなくてわからないからこんな当たり障りのない表現を使っているのだ、と。違うんだ。そうとしか、表現を出来ないからだ。ストレートになるしかないんだ。何故なら、恋愛は人間の本能から生み出される感情だから。理性で考えて誰誰を好きになろうとかそういうようなものじゃないから。好きだ、好きだ、そう思うことが、恋愛だから。本当は言葉で表せる感情じゃないのに、どこかの頭の堅いお偉い学者さんが、何でも名前がないのはおかしいと、『恋愛』という言葉をひねり出したのだから。
 この一本道。何にも邪魔されることはない。信号にも、なんか別のグレーの特徴のない建造物にも。だからそのおかげで、この間、何にも考えることなく進むことができる。はやる気持ちが自然に立ちこぎの体制をとらせる。早く、そして速く、気が変わらないうちに。この思いをぶつけよう。何も考えまい、と思おうとすると何かを考えてしまう、自分自身の悪い癖を知っているから。あわてて思うことを否定しようと、次のことを考える。ああなったらと思って、こうなったらと思って、そうやって思っていては意味がない。仮定でどう考えていても、実際はそうか程度おり、仮想通りには進まない。それは悪い意味にも、いい意味にも。下層は、あくまで貸そうで、現実ではないから。そう甘くもないが、そう厳しくもないはずだ。…また何か考えてしまった。こう思っている時点でもうすでに駄目なんだけれど。
 でも理詰めで何とかなるものじゃないんだ。特に気持ちという変数がある限りは。だから、証明するしかない。科学者が装置を組み立てて実験するように、僕は、_。

 たどり着いた。彼女のいるこの場所に。
 
 人と人をつなぐ人になれたら人にも幸福を分けることができる。幾度か、そういう人になりたいと思う、というより頭をよぎることはあった。でも、自分はそうなろうとは思いきることはできなかった。だってそれでは僕は恋をすることができないじゃないか。人の幸せを語る前に、自分が幸せになる努力をしなくてどうするんだ、と。だから僕は、このままでいい、と思った。この道を走りぬいて、息を抑えて、落ちつけてから、心から湧きあがるように、そう思えた。
 僕という存在、僕というその人格が彼女の中で、背景の一部と化さないように、僕の思いをぶつけるという方法しかない。もう、そうしないと後にも先にも進めないんだから。ペダルを踏んで、車輪が回る。踏みだし、踏み下ろし、そうしてモノが動くなら、何か動かしてみよう。それはめんどくさくないんだから。それだけで、自分のすべてに結果をつけてもらえるなら。それは、たとえ正でも・たとえ負でも、どちらであってもかまわない。心と体をつないで、その思いを動きに変える。そう、これこそが、自転車の鎖。原始的な、何も補助のない自転車の動力は、それを動かそうという思いと動作。分かりやすいエネルギー変換の一例。
 そのまま、そのまま、自分の積極的な思いが、そのまま反映されるものだ。

 僕は彼女の家のチャイムを鳴らした。
作品名:Chain Car 作家名:フレンドボーイ42