東方~宝涙仙~ 其の壱壱(11)
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この小説にはドロドロしたグロテスクな表現が含まれます。苦手な方は即刻時を戻してください。
「キヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ」…ひ?
<あらすじ>
フランドールは逃げる風香とあかりを追いはしなかった。
そして一人きりになった廊下で後ろから誰かに呼び止められた。フランドールは一人じゃなかった。
フランドールは呼ばれるがままに振り向いた。チルノか誰かであるだろうと予想して、まさかそれが自分の最も会いたくなくて会いたかった者とは知らないで。
ー紅魔館・廊下ー
フランドールは言葉がでなかった。
目の前に存在する過去にあった圧倒的な狂気。自分の狂っていた時代と並べてもいいほどの狂気。殺意なき殺行為依存者。俗にいう狂人(人かどうかすらわからないけど)。
「久しぶり、フランちゃん」
「お前は……」
「うへへへ、忘れたのかなぁ?」
「………」
「フランちゃんは物覚えが悪いなぁ」
瞳孔の開ききったような目に、にんまりとした口で狂人は名乗りをあげた。
「アイラだよ!」
※アイラ・ダーブレイル
二つ名:殺意のない殺依
能力:破壊と創造を引き起こす程度の能力
「アイラ…ちゃん……」
「フヒヒ、フランちゃんは頭がわるいなぁもう。アイラ忘れちゃうなんてゴミっちいよ!」
フランドールの体が小刻みに震える。フランドールが震える?フランドールが恐れる?…フランドールは恐れ震えていた。
アイラ・ダーブレイルは幻想郷ではあまり知られていない。それもそのはず、幻想郷でアイラの遊び相手になって、まず生き残れた者は少ない。かつて紫電坂白仙がアイラの殺処分を試みたものの失敗。
その後は八雲紫、藤原妹紅、四季映姫ヤマザナドゥらなどもアイラとの関わりを断固拒否し、戦闘はおろか近づきすらしなかった。
射命丸文も近づきはしなかったため、幻想郷でアイラ・ダーブレイルという名前は知りわたることはなかったが、知る人ぞ知る幻想郷のブラックリストとして扱われている。
彼女には左腕がない。左腕がないというよりも肘から下が切断されていて、左腕が不満足な状態である。左腕に痛々しくも包帯が巻いてあるが、別に呪いを封じ込めているなどといった類ではなく正統的な使い方をしている。
この無い左腕はアイラが自分で切断したもの。とある錯乱した日に鉈を振り回し、結果自分の腕を切り込んでしまった。そして、狂ったアイラは激痛に耐えきれなくなった左腕を自らさらに切り込み、右手で引きちぎった。
骨のズルズル抜ける感触。皮と血管がブチブチと切れていく感触。目の前には汚く飛ぶ鮮血。自分の手には感覚のなくなった自分の手。
不思議な感覚だったろうが、彼女はこれだけは認識できた。
―痛い
彼女は余計に狂いだし、左腕を床に叩き付けて足で踏みつけて右手で折りだした。
自分の手が折れるのに感覚が伝わらない。
感覚が伝わらないのに左側が痛い。
彼女は散々暴走して失神した。
失神した彼女を誰が救ったのだろうか。
失神した彼女を救ったのは姉だった。
「アイラ、あんまり挑発とかしちゃダメって言ったでしょ?」
※シズマ・ダーブレイル
二つ名:影に沈む苦悩の長女
能力:影を作る程度の能力
その例の姉、シズマがアイラの挑発を抑え込む。
面倒見のいい姉で、アイラの付き添いでいられるのはおそらくシズマしかいないだろう。しかしシズマもアイラにことごとく悩まされてきた。
何度も何度も重傷を負わされた。病院の手術ごっこ中には本当にメスで切られた。さらにそこを麻酔もなく針と糸で縫われた。他の例を挙げていったらきりがないだろうほどだ。
「だってフランちゃんがアイラのこと覚えてないんだもーん」
「随分と会ってないから忘れられてもしょうがないのよ」
「じゃアイラはなんでフランちゃんのこと覚えていれたの?」
「それほどアイラはフランちゃんが好きなんだねー」
「ぬぬぬ?じゃあさおねーちゃん」
「ん?」
「フランちゃんはフランちゃんはアイラが好きじゃないってことなのかなぁ?」
「それはお姉ちゃんにはわからないけど、そんなことないと思うよ」
「むずんがしょうじたよ?」
「矛盾?」
「好きなら覚えてられるのに、好きなのに覚えれてられないよ?」
「アイラ、ちょっと文法メチャクチャ」
「フヒヒ、アイラはめちゃくちゃ?」
「アイラはいい子いい子」
そういい妹の頭を撫でる姉の手は傷だらけだったが、温かい優しさが感じられた。
そんな姉妹を見ているとフランドールは無性に寂しくなった。
姉、レミリア・スカーレットとの日々。幽閉される前のレミリアの優しさが欲しくてたまらない。先ほどの恐怖をかき消すほどフランドールは寂しさにつぶされた。
フランドールがまた震えだす。
フランドールは泣いていた。幽閉する前まではレミリアはフランドールを心から可愛がっていた。
一緒にご飯を食べて、でも最初はメイドなんてもの雇ってなかったからレミリアとフランドールで毎食作った。料理に慣れていない最初のほうは焦げたハンバーグなど当たり前だった。それでも牢獄に放り込まれる食べ物や人間よりも何倍も何十倍も美味しかった。
流水が苦手だったから二人で苦労して入った風呂。
『お姉ちゃん崩れてる崩れてる!!』
『フラン!あんたこそ羽が大変なことになってるわよ!!』
『きゃあああ!!』
『こんな時こそ冷静になりなさい!カリスマ性が問われ…きゃああああああ!!!』
なんて会話がフランドールの脳裏に蘇る。泣きながらもそれを思い出してフランドールは少しニヤニヤした。
逆にそれが悲しそうで、寂しそうで、何より自分の狂気のせいでこうなったのを悔やむ姿が実に悔しそうだった。
「フランちゃん、閉じ込められたんじゃないの?」
「………。」
「こらアイラ、やめなさい」
「ホントのことだもん!」
「…………っ!」
「あ、フランドールちゃん!」
「あれ、フランちゃん?」
フランドールはその場を逃げ出した、いや、その場から走り去ったわけではない。フランドールは姉、レミリアの部屋へ向かった。
今いきなり姿を見せてもただ爆発の犯人扱いにされるだろう、それでも姉に会いたかった。
いきなり抱きついたらどうだろう、いきなり泣いて土下座したらどうだろう、いきなり黙って目の前で立ち尽くすのはどうだろう。
ただ運命の答えはひとつ『疑われる』それしかなかった。
走り去るフランドールをアイラはゆっくりゆっくり追いかけ始めた。
「フーランちゃん、アイラとお話しするんだよー」
「あんま挑発はしちゃだめよ?」
「フヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ………」
(止めるべきかしら…)
「キヒヒヒ、フラーンフラーンなフランちゃぁぁん…フッヒッヒッヒッ、イヒヒ、ヒヒヒヒヒ」
(もう止めれそうにないわね)
廊下には不気味な笑い声がこだまするように流れていた。
▼其の壱弐(12)へ続く
作品名:東方~宝涙仙~ 其の壱壱(11) 作家名:きんとき