Holy and Bright
prologue
空があるはずの方向を見ている。
なのに暗闇には慣れたはずの目には、はるか高く伸びた樹々の葉が覆うように茂っているのが映るだけだ。
目を凝らすことが辛くなって、ジュリアスは瞼を閉じた。すぐに葉や枝のすれあう音が聞こえるのみの世界に囲まれてしまう。
動かない。
いや、ここから動けない。
足からどくどくと脈打ちつつ流れる感覚が次第に大きくなってくる。別に華々しい最期を遂げることなど願っていたわけではないが、まさかこの地で、このような有様で事切れるとは思いたくない。けれど、ふだんならあふれるほど自信に満ちた、自分という存在がなくなってはこの宇宙から誇りを司る光のサクリアがなくなってしまう、それは絶対にならないと鼓舞する意欲も、今は完全に失われてしまっている。
この地に光の力はない。それどころか、彼自身が持つサクリアも吸い上げられ、まるでどこか遠くへ吐き出されてしまったかのようだ。
否定されている。
おまえなど要らないのだと、横たわる体へ否応なしにこの地そのものがジュリアスを苛んでいるようだ。
空が見えない。
導いてくれるはずの光が見つからない。
−−他には向けられる微笑みが、自分だけには与えられない。
いつも思い出すのは、うなだれるか、泣いているかの表情。そしてとうとう涙をあふれさせながら怒らせた。そのような顔は見たくない。そのような顔は……させたくないのに。
ああ……ひどく眠い。
待っても誰も来ないだろう。どこへ向かえば良いのかもわからない。導いていたつもりが導かれていた。今さらそれを思い知ってももう遅い。ならばこのまま眠ってしまうほうが楽に違いない−−きっと。
何故なら自分は、要らない存在なのだから。
……アンジェリークにとって、は。
作品名:Holy and Bright 作家名:飛空都市の八月