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ネメシスの微睡み~接吻~微笑

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「くくっ……」
「何がおかしい?」
「おい、てめぇ!」

 思わず溢れた笑いを聞き咎められる。怪訝に問うに留まっているシュラに対し、デスマスクという男は腹立ちを隠しもせずに、再び掴み掛かって来た。

「なるほど。一人ではなく、協力者あってのことか。ムウの言葉の意味も少し理解できた。おまえたちは『教皇の』聖闘士なのだな」
「どういう意味だ、そりゃ?聖闘士は聖闘士。それ以上でもそれ以下でもないだろうが」
「つまり、君たちは『女神の』聖闘士ではないのだという意味だよ。ムウが言うには今の聖域は本来の聖域ではなく、今の聖域に従うは女神の聖闘士ではないということだそうだ。君たちはどうやら『今の』教皇とは深い関係のようだ」

 二人は一瞬瞠目し、互いの顔を見合わせた。その僅かな隙をついて、唯一の出口、扉へと移動する。鈍い痛みが熱を発し、脂汗が滲み出る。それでも口元は薄く吊り上げた。

「おまえたちが何を企み、為そうとしているのか……私には興味のないことだが。信用ならぬ相手にこの身を任せておく訳にはいかぬ」
「ちっ!逃がすかよ!!」

 叫びと同時に繰り出された拳を透明な障壁によって防ぐ。辺り一体激しい閃光と破裂音が響き渡り、その場をまんまと私はやり過ごした。
 囁くように私を呼ぶバルゴの声が導となって、闇の階段をひたすら駆け上がった。ほどなくして出口へと辿り着く。
 そこには待ちわびたように眩い光を纏い、翼をはためかせ舞い降りた黄金の乙女がいた。優しく抱き締められるように、己が身に黄金聖衣を纏う。温かに包む乙女座の小宇宙。迸る力は疼く傷さえも癒すほどである。
 後方から追いすがって来る気配を感じて、足早に進めば、拓けた場所へと出た。潮の香りが漂う。

「海?」

 断崖の先には広がる潮が時折岩を削り取るように打ち付けていた。

「大人しく、戻れ、シャカ。そのほうがお前の為なんだ」
「もう一度チャンスをくれてやるってんだ。教皇の元でな」

 同じく黄金色の聖衣を纏ったシュラが静かに言い放つ。その後に続いたデスマスクもまた同じ黄金聖衣を纏っていたことにわずかに動揺したが、小さな笑みを零すに留まった。

「なぜ私の為なのかね?違うであろう。私ではなく教皇の為ではないのかね?」
「それは」
「チャンスなどと巫山戯たことを。私を厭いながら、私の力を欲するとはなんと愚かな」

 ふわりと背後から撫でつける風に身を任せるようにして、身体を傾ける。

「私には……意味のないこと」
「おい!?」
「──っ、待て!!」

 背面から断崖へと倒れるように落ちて行く。慌てて手を伸ばした彼らの手は届かないまま、空中へと漂っていた。驚愕のまま固まる二人の姿に私は満面の笑みを返す。
 黄金の光が我が身を包み、バルゴの加護が翼となり、海面に叩き付けられる直前、私は目指す場所へと飛翔した。



 泣き濡れた森は何者をも拒絶するかのように鬱蒼と茂みの檻を拡大していた。深過ぎる森の奥は強い日光さえも遮られ、常の闇の様を呈した。魂に刻まれた忌まわしい過去の映像が閉じた瞼に幾度も映り込む。力なき子らの息絶えて行く姿が繰り返される。
 もっと苦しみもがくかと思っていたが、何も心に触れる感慨さえなかった。摩耗しきった心は痛みすらも感じることがないのだろうか。
 ところどころ抜け落ちた床に注意を払いながら、蔦の絡まる柱に手をやり、奥へと進むと、僅かに抜けた天井から木漏れ日が挿す場所に辿り着いた。ぐるりと周囲を見渡した後、蓮華座を組む。
 薄い光はぼやけて闇へと溶けていき、梢のささやかな音すらもそっと静けさへと還っていく。一つ一つの細胞が自然を超えて回帰していくのを感じながら、ゆっくりと鼓動は減じていく。相反するように極みへと高めていく小宇宙。
 やがて小宇宙は夢現の花弁の姿を模し、全身を幾重にも重なり、包みこんだ。固き蕾となってわが身を覆い隠す。
 決して咲くことのない花の中。
 私は一切合財をかなぐり捨てるように深い眠りへとつく。この眠りから唯一覚醒させることができるのはバルゴが望む時と定めて。
 そして眠りから覚醒めた時、私はバルゴの望むまま、忠実なる聖闘士となる。かの人の思い出はすべて泡沫のように、まほろばのように、淡く儚く消えゆくようにと呪いのごとき深い祈りを捧げて微笑みながら、微睡へと身も心も委ねたのだった。




Fin.