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それは、春という名の。

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空気がゆるんできたな、と思った。
北欧の冬は厳しく、長い。だからこそ春の気配には他の国よりも敏感だった。もちろんまだまだ辺りは一面銀世界で、吐く息も白く、風も冷たい。けれども、ほんの少しだけ凍てついた空気が溶けはじめ、死んでいたかのような木々が息を吹き返したようだった。北国で暮らす者は皆と同じだろうが、自分もやはり春を待ち焦がれていた。
(春になったら…)
何をしようかとぼんやり考えていたら、隣を歩く自分よりも少し小さな人影が笑った気配がした。

「スーさん、なんだか嬉しそうです。」

心の中を読まれて思わず立ち止まってしまう。
自分はあまり感情が顔に出るタイプではない。それどころか鉄面皮だの怖いだの言われる始末だ(別にそれを直す気もないのだが)。その上隣を歩く彼は天然というかにぶいというか、空気を読むということをおよそ知らないはずだった。それなのに。
なぜか彼は時々こうして自分の考えをぴたりと当ててくるのだ。

「…なして」
「え?だって顔にそう書いてありますよ?」

不思議そうな顔をしてつぶやく。不思議なのはこちらのほうだった。顔に書いてある、だなんてそんなことを自分に向かって言うのは彼くらいだと思っていると、あぁでも、と続けた。

「空気が少しゆるんできたから、それだけで嬉しくなっちゃいますよね」

あぁ、そうか。
彼も同じことを考えていたのだ。

「…んだなぃ」

彼も北国で暮らす者、凍てついた空気の中の、かすかな春の気配を敏感に感じ取っていた。こうして同じ時を過ごし、同じことを考えていたのだと思うとそれだけで心が温かくなったような気がした。

けれど。
本当は少し、違うのだ。
春の気配は確かにうれしいし、春を待ちわびる気持ちに偽りはない。けれど自分がうれしそうに見えたのはきっと、ほかの事を考えていたからだ。

(春になったら…フィンと何をしようか)

冬の間は必要なとき以外は家に閉じこもるしかなかった。暖かな家の中、二人で過ごすのもそれは幸せな時間だったけれど、春になったら色々なところをフィンと歩いてみたかった。買い物に行くだけでもいい。野原でピクニックするだけでもいい。春のあたたかなやさしい日差しの中で、笑うフィンが見たかった。

(いつか…。)

いつか、言えるだろうか。
どんなに長くつらい冬も、君と一緒なら乗り越えられる。

自分にとって君の存在こそが、春のようなのだと。


作品名:それは、春という名の。 作家名:オハル