折り鶴
誰かのために折るガラではないのに、何をしているのだろう。
葉は食器も片付けず、折り紙をする動きに見入った。
四角三角四角。
折鶴なんてもう何年もしていなかったのに、体で覚えたことは忘れないというやつだろうか。それとも、目の前で何度か繰り返されたから、覚えてしまっただけだろうか。
丁寧な手の動きを葉は、もっと眺めていたかったけれど。課題を思い出してしぶしぶ自室に行く。
その間もハオは、ひたすら折鶴を続けた。裏面が白いものはそれを表にして、また少し綺麗な広告を選ってつくる。
遠い遠い記憶に頼りながらゆっくり進めていたが、そうするうち、もう手が迷い止まることはなくなった。
葉が戻ってきても、ハオはまだ続けている。『近寄るな』とオーラを出している気もしたが、珍しいことではないからかまわない。
はす向かいの席に葉は座った。
先ほどより大分滑らかに動くハオの手。だんだんと速度も上がっている。食卓には折りあがった鶴が無造作に散らばっていて、畳んだままのそれを葉はふくらましていく。
折りあがった全てを鳥の形にしてしまったら、もうやることがなくなって、日が暮れてきたのでカーテンを閉めた。
「ハオ、なにしてるんよ」
「折り紙」
こちらも見ずに答えるから、葉も無言で、できあがった鶴を広げる。
「誰かにあげるんか?」
「いや」
「そうか、お前暇だもんな」
「ニートだからね」
『にーと?』意味のわからない言葉に首を傾げると、ハオは少し笑って、やっとこちらを見た。
折り込み広告は、もう数えるほどに減っている。正方形にした、余りの部分に手をつけて、それをまた折り紙の形に割いた。
「宿題手伝ってくれねえか?」
「別に、いいけど」
そう言ったのに、ハオの手は止まらない。
三角、開いて、四角。
違う折り方になる。
それで、何だかわからないものを作って、こちらに投げてきた。
「やるよ」
「ありがとう……?」
「僕にも何だかわからない。なんとなく覚えてたから」
楽しそうに笑ってハオは、作った大量の鶴をかき集めた。
ぐしゃりぐしゃ。
だきしめるように、かかえるように、強くいだいた折鶴は、笑うような音を立てて全て潰れた。
まだぼうっとした頭に、後ろから手が乗せられる。
「教科は?」
「古文」
残ったのは葉の手の上の、本当にどの角度から見ても何にも見えない、なにか。