愛し殺意
かち、かち、かち、
ボールペンのノック音。
先刻から少年は、繰り返し、繰り返し親指を動かし続けていた。
無表情のまま、否、例えばそこにいるのは人間ではなくて、ポストか、標識か、自販機か、ただそこに在るものを在るとして認識した、無機質とは違う無表情。
倉庫の中は、冷たく、暗い。
床に突っ伏したままの臨也はそれを一身に感じて奥歯を噛んだ。
「臨也さん、臨也さん」
起きてますか?
「こんなところじゃ寝れないよ」
「ああ、そうですよね」
こんな所で寝たら、風邪ひいちゃいますもんね
あはは、といつものように眉根を下げて、笑う。
その間もずっと、響く音は止まなかった。
「帝人くん」
「何ですか?」
「君も、また歪んだものだね」
ゆがみ?
あは あははは あはははははは
あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは
コピーペースト、単調な笑い声が天井にぶつかって臨也の耳に落ちる。
「僕はただ、情報提供をしてほしいだけですよ」
教えて欲しいんです
「臨也さん」
「何処を刺せば目は見えなくなりますか」
「何処を刺せば耳が聞こえなくなりますか」
「何処を刺せば口が聞けなくなりますか」
「何処を刺せば手が動かなくなりますか」
「何処を刺せば足が動かなくなりますか」
「臨也さん」
「どうすれば貴方は泣きますか泣き喚いてくれますか僕の足に縋って許しを請う貴方の姿はどうしたら見れますか」
教えて欲しいんです
「どうしたら貴方を、この世で最も残酷な方法で」
殺
愛 せ ま す か ?
革靴が、近付いて来る。
動かそうとした手の甲に突き立てられたボールペンに、喉の奥で悲鳴を上げた。
「教えてくださいよ、臨也さん」
いつも、何でも教えてくれるでしょう?
”何でも”隠さず、ぜーんぶ。
「……お仕事、なら、ね」
「ああ、そっか。そうですよね」
「じゃあ、これ受け取ってください」
前金、です
ごとん。
ボールペンのノック音が、また増えた。