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キン、キンと刃物が擦れ合うような音が外から聞こえた。誰だろうこんな夜中に、せめて時間はわきまえてほしいと窓際のベッドで寝ていたルビアは身体を起こして近くの窓から外を覗きみる。場所は砂漠の中にある町で、夜はとても冷える。窓から入ってくる風が冷たく、今まで布団にくるまって温まっていた身体を冷やす。ぶる、と身震いをして近くの毛布を手繰り寄せてかける。まったく、誰なのか。砂漠の夜は言葉では昼の形容し難い暑さからぐっと下がって凍えるような温度になる。それなのに外で何かするなんて馬鹿げている。ようやく目が夜の暗闇に慣れてきたのか、外の闇に薄い人影が二つ浮かんで見えた。「カイウス・・・と、お兄様？」多分、おそらく、そうなのだろう、昔から一緒にいたからわかる、男にしては少し小柄なシルエットと、長い茶色い髪をくくりあげた背の高い、頼りになる彼のそれ。剣術の稽古でもしているのだろうか、気になって毛布を肩にかけたまま外へと続く階段を降りた。

「カイウスはまた強くなったな」　俺もうかうかはしていられないと、一通り打ち合いが終わった後にお互いの欠点や行動や剣の振りに関してよかったことを言い合う、すなわち反省会を開いていた。「いや、俺もまだティルキスには及んでない。・・・もっと頑張らなくちゃな」と俯いて言うカイウスに、別に成長が遅いわけじゃないし、俺にはフォレストっていう指導者がついていたから一足先に強くなっただけでお前だってすぐに練達するさ。と励ますのと同時に、いつものカイウスとは少し違う姿を見て疑問に思い、どうしてそんなに急ぐのか、まだまだ時間に余裕もあると尋ねたら、彼は口をつぐんでしまった。これは何かあるなと、己の持つ気質がそうさせるのか元気にさせてやりたいと思い理由を聞こうとした矢先。
「カイウスとお兄様・・・よね？こんな夜更けに何をしているの？」
もう時間も遅いし剣の打ち合いで響く金属特有の音は響くから、きっとみんな起きちゃうわ。と、寒かったのか毛布をかけたルビアが、降りてきた。この寒い中、わざわざ自分たちへの忠告に降りてきてくれたルビアの体を気遣い、起こしてしまってすまなかったね、もう終わるから先にあがっていてくれて構わないよ、とティルキスがルビアを宿屋へと促す。けれどそれに不満があったのかルビアはそれに反発し、二人に向かって「どうしてこんな夜遅くに剣の練習をしているの？旅の途中でもいつも稽古しているじゃない」と尋ねた。ティルキスはカイウスを一瞥した後に言った。
「カイウスに剣を見てほしいと頼まれてね、いつもではないけどこうして時間が空いたときにやっているんだ」
その言葉を聞いて視線をティルキスからはずし、そばに立つ幼馴染へと向ける。目で聞けば、ぼそっとそんなことどうだっていいだろ、お前には。といつもどおりの憎たらしい口調で返されたのにいらついて、「だったらいいわよ馬鹿！どうせ私には剣のことなんてわからないんだから！」と毛布をカイウスに投げつけて走って宿屋へと戻ってしまった。

かつん、かつんと降りてくるときよりは早く、早く階段を駆け上がる。せっかく人が心配してあげてるのに、何よ！別にカイウスがどうなったって・・・よくはないけれど。もっとそれ相応の態度があるってものじゃないの。本当に女の子の気持ちが分からない馬鹿、と心の中で思いつく限りの罵詈雑言を並びたて、自分の布団へとダイブした。あ、毛布忘れてきちゃった、いいかと自己完結して、自分の体を猫みたいに丸めて寝た。

「・・・ルビア、怒って行ってしまったけどいいのかい？」本当はそんなつもりでいったんじゃなかったんだろう？とこちらに笑顔を向けてくる自分とそこまで歳の差が離れていない彼はどこまで己の気持ちを読んでいるのか疑問に思った。「別に、言葉のとおりだ」と言えば、しきりに頷いていた。それも満面の笑みで。人の心からの笑みは周りの人をも幸せにすると聞いたことがあるが、そうは思わない。逆に悪寒がする。あまりにもそれが長く続くので、何がおかしいのかと聞けば、カイウスは本当にルビアを大事にしているんだな、と言われた。それって質問の答えになってねえよと言いたくなったが、どうせ返されるだけなので、とりあえずまあ大事ではあると言っておいた。それは見てればわかるさ、ああまた何か言いだした、今度は何だと思いきや
「だってこの修行、というか稽古か。ルビアを守りたいから始めたんだろう？」
外は寒いのに顔は今にも風呂あがりかというように赤くなる。なんでだよ、と苦し紛れに聞けばそんぐらい見てればわかると。お前のアーリアへの想いもわかるんだよと言いたくなったがあまりに的確に指されたので口がうまく動かず、その隙間から出る音は震えている。畜生、なんなんだよ、こんなことって。思わずさっきルビアに投げられた毛布をつかむ。毛布？・・・あいつ、今毛布なしで寝てるのか。ずっと毛布に視線を落としているカイウスに気づいたのか、ティルキスは早く行ってこいと促す。ごめん、また今度と言って毛布を持って駆け出した。

部屋に着くとすでにルビアは床についていた。寒そうに体を丸めて、自分の体で暖をとって眠っている。いつもなら俺の布団とかとっていくはずなのにと思ったが、そうすればこうして急いできた意味がない。喜ぶべきことなのかわからないが、とりあえず寒そうなルビアに布団をかける。あたたかさを感じたのか、寒さに耐えきれなかったのか顔の強張りがすっととけた。それを見て安心した。ごめんな、と一言つぶやいて布団から手を離す。
「俺、もっとお前を守れるぐらい強くなるから。」
お前に悲しい顔させたくないんだぜ、本当は。そう枕もとで呟いて、皺のよっていないベッドにダイブする。やっぱり布団はかけないと寒いな、と思い、肩までかけて意識を落とした。

「何が強くなりたい、よ。その前に人に心配をかけさせないようになりなさいよ・・・もう」