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翡翠の少年にまつわる記録

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「う・・・っ、畜生、兄貴達容赦なく殴りやがって・・・」
自然の加護を受けた少年が呟く。体にひどい傷を負いながらも、その瞳は液体をこぼすまいと震えていた。
「せめて・・・今だけでも、こんな現実、忘れられたらいいのに・・・」
自然の加護を受けた少年が呟く。深い森の中、湖の辺。くすんだ金髪が翡翠の瞳と共に揺れた。

彼を心配してか、森の精たちが集まってきている。普通は見えない精霊達が、この少年には見えるようだ。
懸命な彼女達の慰めと治癒に、ありがとう、と少年は声を掛ける。
彼女達の必死な姿を見てか、彼の顔は小さく微笑んだ。心配させまいとしているのだろう。
だが、次の瞬間には彼の顔は先ほどの、涙をこぼすまいとする悔しげな顔へと変化していた。

その少年に近づく足音が二つ。
一つは楽しげに弾み、もう一つは慎重そうな忍んだ足音。
だが、度重なる兄達の暴行から逃げるために鋭くなった少年の耳は、すぐにここへ近寄ってくる足音に気付いた。
さっきまでの苦しげな表情を隠すように、幼いながらもキッとした鋭い眼をして叫ぶ。
「誰だ!」
小さいながらも意思を秘めた瞳。その瞳で音のした茂みの方を見遣る。
すると。

「あーら、威勢がいい坊ちゃんだねぇ」
「てめぇが変態的だから警戒してんだろ。少しは分かれよ」
まだ幼さを顔に浮かべる、2人の少年が出てきた。

1人は、少年とは違う、ハッとするほど明るい金髪に、深い蒼の瞳の、ゆるいウェーブがかかった髪を持つ少年。
もう一人は、澄んだ白銀の美しい髪に、濃い緋色の瞳の、ばさばさと切りそろえられた髪を持つ少年。
2人とも少年ながらに分かる美男である。そして、

「騎士見習い・・・?」

そう、彼らは騎士、正確にはその見習いの格好をしていた。
白いローブと茶色い靴という格好。そして腰には剣を。蒼眼の少年の方は長い髪を青いリボンで結っていた。
「そ、俺らは騎士見習い。ところで其処の坊ちゃん、そんなとこで何してんの?」
蒼眼の少年がその質問に肯定を示した後、翡翠の少年に近づき、にこりと笑顔を浮かべながら聞いた。
「んなこと、手前らには関係な・・ッ!!」
どうやら蒼眼の少年から逃げようとして、さらに傷口が開いてしまったようだ。

「ん?お前、怪我してんのか?ちょっと俺に見せてみろよ。」
その様子を見ていた赤眼の少年が近づき、そう言った。
「だから、手前らには・・・!!」
若干泣きそうになりながら少年が退く。
「あーあ、泣いちゃったじゃない。ギルの顔が怖かったんじゃない?」
蒼眼の少年が茶化すように笑うと、
「手前の顔が気色悪いからだろ!とにかく悪くはしねぇ、見せてみろ。」
そう言いながら、強引に少年の服を捲りあげる。
「いっ・・・・・!」
激痛が走ったのだろう、少年の顔が歪む。
「こりゃひでぇな・・・矢で射られたか。」
傷口を見てみると、肩のあたりに矢で射られ、無理やり引き抜いた跡が見られた。血は流れ続けている。
「大丈夫そう?ギルちゃん」
心配しているのか、さっきまでのおちゃらけた雰囲気はどこへやら。蒼眼の少年が顔を曇らせて問う。
「だーいじょうぶだって。この俺様だぜ?よし、行くぜ!」
安心させるようにそう言って笑うと、すぐ真剣になり、何やら唱え始めた。すると、少年の傷口が鈍く光り、塞がっていく。
「さーすがギル!!治癒は専門分野だもんね!」
「まぁな、・・・にしても良かったぜ。」
蒼眼の少年に褒められ、嬉しそうな顔をした赤眼の少年は、ほっと安堵した顔をする。
彼の腕には、先ほどまで苦しげに息をしていた翡翠の少年が、安心したのか、穏やかに眠っていた。
「まぁとりあえず、この子このまんまにしとくわけにもいかないし。連れて帰りますか!」
そう言って蒼眼の少年が立ち上がる。どうやらたまたま通っただけのようだったが、声が聞こえてきたから通って見たらしい。
「そうだな。」
そういいながら赤眼の少年も立ち上がる。背中に翡翠の少年を乗せて。








そんな時の流れの日々が過ぎ去り、数年たった、彼らが大人になった時の事。



「おいこのクソ髭!!さっさと書類かけ、俺の仕事が増える!!」
「やーなこった!まぁお兄さんには世界のレディを口説くって仕事があるからねぇ・・・」
「おいフランシス!!てめぇそれでも副団長か?・・・俺様悲しくなってきた・・・」
彼らは仲良く騎士団に入り、それぞれ自らの仕事をしているようだ。
これはそんな彼らの、数々の出来事を綴った話である。

ギルベルト・バイルシュミット
王国直属の騎士団のバイルシュミット士団隊長。副団長2人の喧嘩に振り回される不憫。
治癒、自らのオーラを使った単純な仕組みの魔法や、剣は全般的に出来、得意。さらに騎士団一の戦上手。運も実力も持っている。

フランシス・ボヌウォア
王国直属の騎士団のバイルシュミット士団副隊長。料理と美しい物を何よりも愛する髭。
魔法陣などの計算、複雑な魔法に長けており、直観的な魔法はやや苦手。剣はレイピアを扱えるが、そこまで上手くもない。ギルベルトには連戦連敗である。坊ちゃんと呼びながらアーサーの事を可愛がっている。

アーサー・カークランド
王国直属の騎士団のバイルシュミット士団副隊長。自然と紅茶、刺繍などが好きな飯マズ。
妖精が見え、非常に珍しいフェアリストである。そのため、妖精との連携技を得意とする。また、細かい魔法よりもイメージを具現化する魔法の方が得意らしい。が、ほぼオールマイティである。剣はエクスカリバーを使い、ギルベルトよりも下か互角の腕前を持つ。ちなみに喧嘩は口も腕も強いらしい。 弓矢の名手。





オ―ラ・・・その人に宿る魔力。天性の才能によるもので、一般の人間はほとんどない、もしくは持たない力。稀にとても強い力を持つ者もいる。大抵は血筋の関係が多いが、突然変異の場合もある。香りや色がある。

フェアリスト・・・フェアリーリストの略称。妖精や亡霊など、一般の人間には見えない特殊なものが見える者の事を言うが、一般的には妖精が見える者の事を言う事が多い。

戦い方・・・一般の人間や、低級の魔物または魔族には剣、弓矢などの武具を使い、それでも駄目な場合は魔法を使う、とされている。

魔物・・・一般の獣と何ら見た目が変わらない場合もあるが、姿かたちが全て異なっているものまで、様々な種類がある魔獣。使い魔などにしたりすることが出来る。知能は一般的に低い。

魔族・・・人間などと同じように、言葉を使い、戦う事が出来る。人間の事を敵とみなすものが多く、賢いものが多い。魔族同士で独自のネットワークを持っているらしい。先の魔法大戦により魔族は世界中に散らばり、様々な場所に潜んでいると言われている。

作品名:翡翠の少年にまつわる記録 作家名:翡翠