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春雷

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ハリーがホグワーツを再び訪れたのは、ヴォルデモートとの最後の戦いから、一年後のことだった。

春の日差しの中、しばし再構築された城を、感慨深げに眺める。

城内での激しい戦いで建物は崩れ落ち、無残な姿を晒した記憶も、まだ自分の中では生々しいものだった。
しかし、今、目の前にある新しく建て変えられた建物は、ハリーが在籍したときのホグワーツ城と、何ひとつも変わっていないように見えた。

門柱に立つ魔よけのガーゴイルの石造が、通り過ぎる者を見下ろしている姿も、大小さまざまな尖塔が突き出ている城の外観も、年代を経た石灰岩の外壁も、どっしりと重みがあり、重厚な造りのままそびえ立っている。


大きな樫の木の扉を開けて中へと入ると、城内には出歩いている生徒の人影はない。
午後の授業の最中なのか、呪文を唱えている声が、どこからか微かに響いてきた。

そのままゆっくりとした足取りで、地下へと続く階段を下りていく。
見覚えのある研究室の前に立つと、中から話し声が漏れていることに気付いた。

今は授業中だし、誰もいないと思っていたので、いぶかしげに首を傾げながらノックをすると、その音に部屋の中の話し声がピタリと止まる。
一瞬の間のあと、軽い咳払いが聞こえて、低い声が「中へ」と答えた。

「失礼します」と言いつつ、ハリーはドアを開けて入る。
予想よりも部屋は明るくて、高い位置に設けられた窓から入ってくる光は暖かく、地下室全体を照らしていた。

「──マルフォイ?」

名前を呼ばれた相手は少し驚いた表情で、椅子に座ったまま、ハリーを見詰め返した。
中から聞こえてきた話し声は、ドラコのものだったらしい。

ドラコは何も言わずに、そのまま壁にかかっている肖像画に視線を向けた。
「来客のようですし、僕は部屋から去ったほういいですか、先生?」
「いいや、ここに居ても構わん。別に、わたしが呼んだ相手でもないし、勝手にやって来たのだからな」
 スネイプは額縁の中から、相変わらず不機嫌な表情で、陰鬱なもったいぶった態度のまま、ハリーを見返す。

しかし、ハリーは相手の邪険な態度に臆することもなく、額の前へと近づき、真正面に立った。

「ここへ来るのが遅くなってしまい、すみません。闇祓いの仕事が立て込んでいて、やっと休暇をいただけたので真っ先に伺いました。先生が歴代のホグワーツの校長のお一人に加わり、こうして、お話が出来ることを、とても嬉しく思います。……僕は最後まで、ダンブルドア先生が、あなたに託した思いに気付かずに、誤解したまま逝ってしまわれたことを、今でも後悔しています。本当にすみませんでした」

真摯な態度と言葉で、スネイプに詫びる。
うつむいた顔を上げると、ハリーの瞳がじっと相手の目を見詰めた。

スネイプは一瞬だけ、その緑の瞳を見返したかと思うと、すぐに鼻を鳴らし、視線を反らせる。
「フン、だから貴様はいったい何しに、ここへ戻って来たのだ?在校生でもないくせに」
 素っ気ない態度のまま、スネイプは言葉を発した。

「お詫びと、お礼を言いに」
「だったら、もう聞いたから、さっさと出ていけ」
シッシッと追っ払うような素振りのスネイプを相手に、ハリーはへこたれなかった。
オーラーとして過ごした一年間は、一層彼に度胸という名の図々しさを、身につけさせたのかもしれない。

「──それで、校長先生としての復活はどうですか?居心地や、住み心地は、生前と大差ありますか?何か困ったことがあったら、何でも仰って下さい」
「移動が制限されて、あまり遠出は出来なくなったことぐらいで、あとは変わらん」
下手に出るハリーの態度が気に食わないのか、スネイプの態度はよそよそしいままだ。

「それを聞いて安心しました。先生が歴代の校長のひとりに加わるのを反対した人もいたのですが、ちゃんと先生の功績を精一杯説明したら、分かってくれました」
「あの、日刊予言者新聞のインタビュー記事ことを言っているのかね?ベラベラと喋りおって、まったく!」
苦々しい口調で呟く。

「自分が知っていることを、すべて話したまでです。世間が思い込んでいる誤解を解きたかったから、つつみ隠さず話しました」
「余計なことを──」
忌々しげに首を振った。

「先生から託された大切な記憶は、今でも自分の中にあります。いろいろな困難や苦しみを乗り越えて、使命を全うした先生のことは、尊敬して止みません。自分の知っている人の中でも、いちばん勇気のある人です」

ハリーの言葉に驚いたように、スネイプは目を見開き、居心地が悪そうに身動きをすると、「用事があるので、吾輩は退出する」と言って咳払いをすると、額縁から足早に去っていった。


作品名:春雷 作家名:sabure