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トマトとピーマン。

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「いいかい!?ロイドはトマト、コレットはピーマン食べ終えるまで帰さないよ!」

「「うぅ……っ!」」


ミナクルの町にある唯一の飲食店、さくら食堂。そこの女主人であるジュディの容赦 無い言葉が店内に響いた。
ロイドとコレットは向かい合わせでテーブルに腰掛けたまま、目の前の皿に綺麗に取り残された、自らの宿敵と睨み合う。

普段はとても気のいい、食堂のおふくろさん的存在のジュディだが、食べ物を残そう とする輩にとても厳しいことは、既に周知の事実だ。



「そっちの二人もだよ!」


ロイドとコレットの隣りのテーブルに、これまた偶然向かい合わせに腰を下ろして いたクラトスとジューダスの二人が同時にため息をつく。

「…人は誰しも苦手なものが存在する。それが私の場合、トマトだというだけだ。」
「そしてそれが僕の場合、にんじんとピーマンだというだけだ。」

目を伏せ、クールに言い放ってみても、結局は唯の好き嫌いだ。

「いや、格好良く言っても要は食いもんを残してるだけだろ?いい大人なんだから食えよ。」

「くっ……!」

あっさりとリッドに突っ込まれ、何も言い返せないクラトス。

「…僕は16歳だ。」

視線を明後日の方向に向け、静かに呟いてみるジューダス。だが、そんな言い訳で逃れられる筈が無いことはよくわかっている。

「えっ?ジューダスさんって16歳なんですか〜?私とおんなじですね〜♪」

「えっ!?ジューダスって年下か!?…まぁ、背はちっこいけどな〜…」

隣りのテーブルから思わぬ方向で突っ込まれ、ジューダスは多少狼狽える。
ロイドに「ちっこい」と評されたことに少々むっとしたが、10センチ以上差があるのも事実なので何も言い返さずにおく。

「おんなじ16歳で、ピーマン嫌いなとこも一緒だなんて、私たち仲良くなれそうですよねっ」

にこにこと屈託の無い笑顔を向けてくるコレットに、ジューダスは何と返していいものか戸惑うばかりだ。


そのとき、ロイドがはっ、と気が付いた。



コレットとジューダスはピーマンが嫌い。(ジューダスはにんじんも。)

俺とクラトスはトマトが嫌い。




なら、お互いの為に取るべき道はひとつじゃないのかッ!?



さっ、と意味ありげな視線をジューダスとクラトスに投げ、目配せする。
勘の良い二人は、それだけで気付いたようだった。

「うわっ!でっけー鳥!!あれ、なんて名前なんだ!?」

突然大声を張り上げ、窓の外を指さすロイドの台詞に、揃って視線をやるジュディとリッド。

二人とも、料理人&狩人として獲物の名前には詳しい自信がある。

二人が食堂の窓に目をやった一瞬。
ロイドは自分の皿に残っていたトマトをフォークに突き刺し、コレットの口に押し込む。

「んむっ。」

そのまま引き抜いたフォークで、コレットの皿に残っていたピーマンを素早く拾い、一口で頬張った。
トマトを押し込められたコレットは、突然のことに目を見張りつつも、もぐもぐと咀嚼する。

一方、隣りのテーブルではロイドが作り出してくれたチャンスに、しっかりとお互いの皿を交換するクラトスとジューダスの姿。

「んー、何処だぁロイド?」
「そんなに大きかったのかい?」

まだ窓を覗き込んでいる二人を横目に、席を立つ4人。

「わりぃ!見間違いだったみたいだ。洗濯物でも飛んでったのかもなぁ?」

しれっと悪びれもせず、笑顔で返すロイド。

「んじゃ、ごちそうさん!」
「ご馳走さまでした〜♪」
「…世話になった。」
「………。」

そそくさと食堂を出て行く4人の背後からは、「あら!全部食べたんだね〜♪」「やれば出来るんじゃんか〜」などという、良心をちくりとさせる2人の嬉しそうな
会話が響いていた。



やや早足のまま、食堂の前にある広場の噴水辺りまで来ると、先頭を歩いていたロイド が背後の3人にくるりと振り返り、えっへん、と胸を張った。



「……全員、俺に感謝!!!」


「ロイドありがとう〜っ♪」
「……世話になったな。」
「………助かった。」

小さく礼を口にしながら、ジューダスは密かに嘆息する。

どうにも、この世界では調子が狂う。いや、ここに居る住人達に狂わされている、と言うべきか。
自分のスタイルを突き通そうにも、どうにも逆らえないのだ。


だが、悪くはない。

この世界も、ここに住む住人達も、仮初めの来訪者達も。





「…それじゃ、僕は行くからな。」

広場に残る3人に踵を返し、立ち去ろうとすると。
背後から陽気な声が掛けられる。

「また一緒にご飯食べましょうね〜!ジューダスさ〜ん♪」

足を止め、首だけを巡らせて背後を見遣れば。

ぶんぶんと音がしそうな程に勢いよく両手を振るコレットの姿があった。
人懐こい笑顔は、よく見知った金髪の少年を思い出させる。

「…僕らは同い年なんだろう。ジューダス、でいい。敬語も必要ない。」

ふ、と僅かに口元を綻ばせそれだけを言い放つと。
さっさと歩いて行ってしまうジューダスの細い背中に、暫しその笑顔に見惚れていたコレットが慌てて返事を返す。

「…あ、…うん!またね〜ジューダス〜♪」




心地のよいソプラノに、振り返らないまま片手を挙げて返すと。


ジューダスは町の外れにある、図書館に向かうべく再び歩み始めた。









作品名:トマトとピーマン。 作家名:蒼井シホ