二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

選びとる未来

INDEX|1ページ/1ページ|

 
「殺生丸のやつ、また来たのか?」
楓はりんが抱えている美しい花模様の着物を見ながら聞いた。
「うん。新しいお着物、届けてくれたの。りんの背が伸びたから、新しい着物が必要だろうって」
そう言ってりんはていねいにその着物をたたんで、嬉しそうに笑った。
楓はその笑顔を見ながら、心の中でつぶやく。
(確かに。りんは大きくなった・・・。もう15歳じゃからなあ)

殺生丸が楓のところにりんを預けてから、4年近い月日がたっていた。十分に滋養ある食べ物を与えられ、りんはすくすくと成長していった。もう立派な娘ごだ。美しい黒髪が風にたなびくと、里の男たちの目を奪った。女子にしては背が高いほうだが、そのすらりと伸びた姿はかえって女性としてのしなやかさを思わせ、男たちの注目の的だった。

(もう、そろそろ、嫁入りのことも考えてやらねばならぬがのう)

楓はりんの姿を見ながら、彼女の将来のことを思ったが、気になるのは何といっても殺生丸の存在だ。殺生丸のような大妖怪がまとわりついていては、いくらりんが美しい娘だとはいっても、誰もが恐れて嫁にすることをためらうだろう。それに・・・。

(殺生丸自身が、りんを嫁に出すことを許すかどうか・・・)

楓としては、りんに人間の女として普通の幸せを手にいれてほしかった。りんは性格もしっかりしているし、きっとよい嫁ごになり、かわいい子供たちを産むであろう。りんにはそういう幸せをつかむことができるのだ。殺生丸も、りんが妖怪の世界と、人間の世界のどちらでも自分の意志で選べるようにと、楓のもとに彼女を預けたはずだった。しかし、月日がたつにつれ、殺生丸とりんの間はより密接になっていくように思えた。殺生丸は三日といわず、てみやげを持ってはりんのもとを訪れてくるし、りんはりんで、殺生丸が自分を置いてどこかへいってしまうことなど想像もしていないようであった。殺生丸が帰ってくる場所はここで、殺生丸が外出している間ただ自分は留守番しているのだ、と思っているようであった。


殺生丸が訪ねてくると、りんと二人で丘の上の大樹の根元に座り、長い間風に吹かれていた。話しているのはひたすらりんのみのようであったが、殺生丸はりんが話している間ずっと彼女の顔をみつめていた。殺生丸が笑うことなどありえない。が、楓には、まるでその殺生丸の表情がりんに微笑んでいるように見えた。

時々、殺生丸はりんを抱えて遠くまで飛んでいくこともあった。一度日が暮れてもりんが帰ってこないのを心配して楓が里の周りをうろうろしていると、殺生丸が天空からりんを連れて舞い降りてきたときがあった。

「なんじゃ、りん、心配したぞ、こんな遅くまで!殺生丸、りんをこんな時間まで連れまわしてはいかんじゃろう!」
「楓おばあちゃん、ごめんなさい。心配してくれたのね?でも、殺生丸さまと一緒だから、りんは大丈夫だよ。あのね、殺生丸さまが海を見に連れていってくれたの。すごーく大きかったよ、海。水がいっぱいで、青いの。りん、楽しくって、つい遅くなっちゃった。ごめんなさい。」
「海?それは山をいくつも越えた先ではないか。そんな遠いところまで?」
「・・・・」殺生丸は無言である。
「こんど、楓おばあちゃんにも見せてあげたいなあ。どこまでも、どこまでも青い水が続いていて、すごくきれいだったよ」
「わかった、わかった。とにかく夜風はまだ冷たい。体に悪いぞ。はやく休みなさい」
「はーい。殺生丸さま、ありがとう!今日はとっても楽しかった!また、連れていってね!」
そういうりんの頭に殺生丸はその手を置いて、そのままりんの頬をそっとなでた。
まるで愛しい恋人の頬をなでるように・・・。
殺生丸の目がとてもおだやかだ。

(妖怪がこんな表情をするものなのか・・・)
楓は意外であった。

「りん。ゆっくり休め。また、来る」
「はい、殺生丸さま、おやすみなさい!楓おばあちゃんも、おやすみなさい!」
りんは殺生丸に手をふって、家のほうへ駆けていった。

殺生丸はその姿を見送ったあと、森のほうへ歩きかけたが、ふと立ち止まり、背を向けたまま、楓にいった。

「夜風はりんの体に悪いのか・・・」
「え?」
「今度は、遅くならぬようにする」

楓が問い返そうとすると、もうその時には殺生丸は遥か上空に飛び上がっていた。

(めずらしいこともあるものじゃ、あの妖しがわしに言葉をかけるなど)

青白く輝く月を背景に、殺生丸は星の中を飛んでいた。その殺生丸の姿がどこか楽しげなようで、楓は苦笑してしまった。

(殺生丸のやつ・・・)

ここは妖しと人が共に住む里。共に生きる時代。りんの未来。それは、りん自身が選びとっていく。

楓は夜空を見上げながら、ふっとため息をついた。









作品名:選びとる未来 作家名:なつの