殺生丸さまの嫁とり物語 その3
しばらくして殺生丸は目を開いた。朝日の昇る兆しが東の空に現れている。りんはやすらかな寝息をたてて殺生丸の腕の中にいる。先ほどの妖艶ともいえる姿態と違い、まるで赤子のように無邪気な顔だ。
(りん・・・)
こんなに安らかな気持ちは生まれて初めてだった。始終波たっていた心の海が、なぎをむかえたように心地よいさざ波を心の岸辺に寄せてくるようだ。殺生丸はそっとりんの髪をなでた。
「う・・・ん・・・」
りんが目をあけた。
「せっしょう・・・まるさ・・・ま?」
「起こしてしまったか、りん」
「あ・・・」
りんは意識がはっきりしていくうちに、昨夜の行為を思い出して、急に恥ずかしくなった。しかも、自分が裸であることに気づいた。裸のまま、殺生丸の白毛皮のもこもこに包まれていた。
「りん。どうした?顔が赤いぞ」
「あの・・何でもありません・・・ちょっと恥ずかしくて」
「恥ずかしい?昨夜あれほど、私にすべてをさらしておいてか?」
「あ・・・殺生丸さまったら・・・そんな・・・」
意地悪と言おうとして殺生丸の顔を見たりんは驚いて黙ってしまった。殺生丸が笑みを浮かべていたから。自分に微笑んでいたから。
「殺生丸さま・・・」りんは心の奥がじんと熱くなった。
「りん、つらくはないか?痛むところはないか?」
「いいえ。大丈夫です」
「そうか。昨夜は私も加減ができなかった。無理させたかもしれん」
「そんなことないです・・・殺生丸さま、やさしかった・・・」
「・・・・」
(私をやさしいなどというのはお前だけだ。私がやさしくなれるとしたら・・・それはお前にだけだ、りん・・・)
殺生丸はりんの頬に手を添えた。
「りん」
「はい?」
「そろそろ屋敷に帰ろうと思う」
「はい」
「・・・ただ、その前に・・・」
「え?」
「もう一度、お前を抱くぞ」
「あ・・・」
殺生丸が唇を重ねてきた。りんの体が昨夜の熱情を思い出したように、殺生丸の愛撫に答えて小さく震えた。まるで殺生丸を待ち受けるように、りんの足の間が熱を帯びる。
「もう・・・潤っているか」
りんの足の間にわが身をいれた殺生丸は満足気につぶやいた。
「りん。それほど私を欲しているか」
「はい・・・殺生丸さま・・・だって、りんは・・・殺生丸さまが好きだ・・から・・・だい・・・すき・・だから・・・」
殺生丸に抱かれながら、りんが熱い息の下からきれぎれに言葉をつむぎだす。
「りん・・・違うだろう?こうして抱き合っているときは・・・私の呼び名は・・・」
「あ・・・あなた・・・」
「そうだ。その呼び名を許すのは、お前だけだ。りん、お前だけだ」
「ああ、あなた・・・そんなに強くしたら・・・・・・」
「りん・・・」
りんを愛おしいと思う気持ち。りんを欲する気持ち。りんと一つになりたい気持ち。殺生丸のりんへ向かう気持ちは果てがない。その果てのなさが、殺生丸を駆り立てていた。
屋敷に戻った後、殺生丸は激しい愛撫に疲れきったりんを、そっと寝所に横たえ、着物をかけてやった。
「少し眠るがいい」
「はい・・・」
殺生丸は身づくろいをして、部屋を出ていった。
「邪見!邪見!」
「あ、殺生丸さま!お呼びでしょうか」
「うむ。薬草湯とざくろの実を持ってこい」
「は?殺生丸さま、どこかお悪いので?」
「私ではない。りん、だ」
「あ、り・・・いえ、奥方さまが」
「ちと、疲れさせすぎたようだ」
「あ・・・ああ~」
(まあ、初夜だからのう・・・)邪見は一人納得した。
「体の疲れが早く取れるようにな」
昨夜から今朝にかけて、りんは十回では足りないほど達している。初めての経験の上に、あまりにも感じ方が深過ぎて、りんは腰が立たなくなっているようだ。
「かしこまりました~」
邪見は廊下をたたたと走っていった。
殺生丸は表座敷のほうへ歩いていった。
(あ・・・りんの匂いだ・・・)
自分の体から、りんの甘い匂いがたちのぼってくる。そのことが、殺生丸に笑みを浮かべさせた。
「人は儚いぞ」
母の言葉をふと思い出した。
(いわれなくとも、わかっておる)
りんの時間が、自分に比べて、はるかに短いことくらいわかっている。だからこそ。一日たりとて無駄にできない。りんの時間が、りんの人生が、自分で満たされるように。りんがいつでも幸せでいられるように。
殺生丸は痛いような思いを抱えていた。それが切なさというものであるとは、妖怪の身にはわからなかった。
完
◇あとがき◇
殺生丸さま大好きです。りんちゃんとしあわせに暮らしてほしいものです。殺生丸さまのあのもこもこは「白毛皮」としました。あのもこもこをポケット代わりに使ってしまいました。犬夜叉と違って、殺生丸さまはりんちゃん一筋なところがいいですね。あと、さりげないやさしさ、というか。殺りんカップルは書いてて楽しいです。
作品名:殺生丸さまの嫁とり物語 その3 作家名:なつの