【かいねこ】恋文
「カイト、何をしている」
いろはの言葉に、俺は筆を置いて、
「見ての通り、文を書いている」
「子供達を放っておいてか」
「俺がいると、邪魔者扱いされるからな」
最近、子供達の勉強はいろはに任せている。
彼女の方が知識は豊富だし、教え方も上手い。それに、俺が相手だとどうしても甘えが出てしまい、結局遊びに始終してしまうことが多いのだ。
「お前も一緒に、勉学に励めばいいだろう」
「そうすると、子供達の機嫌が悪くなる。俺にいろはを取られたと言って。俺からすれば、お前を子供達に取られたことになるがな」
笑いながら言うと、いろはは無言で俺の隣に座り、
「・・・・・・私はお前だけの物だから、誰かに取られたりはせぬよ」
頬を染めて、小声で呟く。
「いろは」
「ず、随分熱心に書いていたようだな。添削してやろうか?」
伸ばしてきた手を掴むと、びくりと身を震わせた。
「いや、これは書き損じたのだ。改めて書き直すよ」
「そ、そうか。大切な手紙なのだな」
「恋文だからな」
「は?」
俺の言葉に、いろはは一瞬呆気にとられたような顔をし、次いでキッと俺を睨みつけてくる。
「お前、堂々と口にするとは、大した了見だな」
「別に、疚しいことはしていない」
笑いを堪えながら答えると、いろはは俺の手を振り払い、
「こんなもの!」
素早く手を出して、ぐしゃりと紙を握りつぶした。
「何をするんだ。裏はまだ使えるぞ」
「うるさい!わ、私の前で、良くもそんな」
涙目で怒る様が余りに愛おしくて、堪えきれず吹き出してしまう。
「何がおかしい!!」
「ふふっ・・・・・・いや、すまない。お前が子供達ばかり構うから、からかってみただけだ」
「え?」
俺は、いろはの手に握られた紙を指さし、
「それは、お前宛の恋文だ。手紙で思いを伝えられるのは嬉しいものだと、ルカに言われたからな」
「え?あっ、え?」
「だが、俺の性には合わないな。どれほど文字を書き連ねようと、伝えたい事はただ一つだ」
戸惑ういろはを抱き寄せた。
「好きだ、いろは。お前が好きだ」
「えっ、あっ・・・・・・」
いろはは首筋まで朱に染めて、俺の胸に顔を埋めると、
「・・・・・・私も、お前が好きだ」
微かな声で呟く。
「怒鳴ったりして、すまなかった」
「いや、俺が誤解させるようなことを言ったからな。悪かった」
いろはの髪を撫でていると、かさかさと音がして、
「・・・・・・これを、貰ってもいいか?」
「書き損じだぞ?」
「良い。折角お前が書いてくれたのだ。手元に置きたい」
「そうか」
それなら、もっと丁寧に書いてやれば良かったな。
いろはの体に腕を回しながら、改めて清書した物を渡そうと、心に決めた。
終わり