Illumination
ちら、と目線を挙げればストロベリーのように赤い大きな瞳が、自分を映している。
視線をまたチョコレートケーキに戻した。
フォークを持ち直して、綺麗なデコレーションを崩してしまうのは少し気が引けるものの、それを進める。
口の中へ入れれば、ふわりと甘い、だがチョコレートの苦さもちゃんと相まっている。舌が肥えているスパーダにとっては拙い味ではあるが、彼女にしては上々だ。
「どうよ」
「ま、合格点やってもいいくらいにはマシになったな」
「何その上から目線。美味しいのか美味しくないのかはっきりしなさいよ」
「うめーよ。まあ、これでコーダには勝てんじゃね?」
「そんなにツインバレット喰らいたい?」
額に青筋を立てつつも笑顔で銃口を突きつけるイリアに、タンマタンマと両手を挙げて制する。
ふー、と息を吐き出せば身体中の力が抜けたように頭を机の上に乗せた。
「あーもーどーしてあたしがこんなことしなきゃいけないわけー?」
「お前がやるって言い出したんだろが」
「しかもよりにもよってあんたに菓子作りを習うなんて屈辱だわ…」
「だったらコーダに習うか?」
「それはもっと嫌」
ケーキの二口目、口に含んだ。中に登場した苺の酸味が舌に広がる。
「ルカも喜ぶよ」
突っ伏したままの彼女の表情は見えないけれど、きっとその髪の毛と同じくらいに赤いのだろうということは簡単に予想出来た。
「…別に、ルカのためだけじゃないし…あ、アンジュだってエルだって、リカルドだって食べるものだし…」
「へーへー」
ひらひらと手を振ってそのまま、無造作に目の前の頭をかき混ぜた。
何だか、傍観者の側が笑ってしまうくらいに、微笑ましいというか、馬鹿馬鹿しいというか、可愛らしいというか。自分も自分でその気持ちがわからなくも無いから、余計にくすぐったいのだけれど。
ばたばた、と騒々しさが増して、キッチンまで届いた聞きなれた声の中に、待ち人来る。
「お、着いたみたいだな」
「え、ちょ、ちょっと早いじゃない!あたしまだ何もしてないのに!」
ああもうあんたのせいで髪の毛ぐちゃぐちゃ!と八つ当たりじみた言葉に反論しようと口を開くも、慌てふためいてる姿に届くわけが無いと自己完結、思わず緩む表情も気づくことは無かった。
「だーいじょうぶだって。おらおらさっさと行ってやれよ」
「行く、行くってば!ちょっとどこ触ってんのよ!」
キッチンから半ば無理矢理イリアを追い出して、玄関の方へ駆けてゆく姿を見送る。髪を伸ばしてみたり、スカートを履いてみたり、化粧をしてみたり。恋すれば女は綺麗になると言うが、それにしてもやっぱり、女ってのは恐ろしい。色んな意味で。
「何ぼーっとつったってんのよ!早く行くわよ!」
「へいへい」
( お、雪だ )
窓の外を白ませるそれは、触れると、きっと冷たいのだけれど、今日くらいあべこべに熱かったりしてもいいんじゃないか、なんて子供じみた夢に笑った。
Illumination
作品名:Illumination 作家名:ゆち@更新稀