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殺生丸さまの受難

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殺生丸は今日は多少手荒なことになっても母の張った結界の中に入ってやる決意だった。
生気を全身にみなぎらせて、結界に足を踏み入れようとしたとき、りんの声が聞こえた。
「殺生丸さま」
「りん!」
りんが結界の向こうに立っていた。そして、その後ろに母も・・・。
「殺生丸。どうしたのじゃ?りんは気持ちが落ち着いたようじゃ。お前に話があるということじゃ。さ、りん。結界を今といてやるからな。殺生丸にお前の決意を話しなさい」
(決意!?)
「はい・・・殺生丸さま・・りん、お話があります」
思いつめた目でりんが殺生丸を見上げる。
(まさか・・・私のもとを去ると・・・)
殺生丸の心に不安が走ったが、いまはとりあえず、りんの姿を三日ぶりに見ることができて、素直にうれしかった。りんのまぶたが腫れている。よほど泣いたのだろう。私はりんを幸せにするために娶ったというのに。りんを泣かせるなど、私がもっとも忌んでいることだというのに。
殺生丸はそう思ったとたん、りんを抱いて空高く飛んでいた。その姿を見て、母は「まるでとんびのようじゃ」とつぶやく。
(ま、しょせん、痴話喧嘩じゃからの。しかし、殺生丸のやつ・・・三日間寝てないじゃろう、あいつ・・・からかうネタが増えたわい)
母はにんまりした。


りんを抱いて上空へ飛び上がった殺生丸は、りんの少しこけた頬をそっとなでた。
「りん・・・大事なかったか?」
「はい。心配かけてすみません、殺生丸さま」
「お前が元気ならそれでいい・・・」
「殺生丸さま・・・」
「なんだ?」
「あの青いお花の野原へつれていってください」
りんがどの場所のことを言っているのかすぐわかった。二人が初めて契った場所・・・。


殺生丸はりんをそっと野原へ降ろした。りんのはれたまぶたをやさしくなぞる。
「りん・・・たくさん泣いたのか?」
「・・・いいんです、りんが悪いから・・」
「りん・・・・私は・・・」
「待って、殺生丸さま。まず、りんの話を聞いて」
「・・・お前が私を嫌いだという話なら、聞く必要はない」
「違うの・・・。りん、殺生丸さまにあやまらないと・・・」
「あまやる?」
「はい・・・殺生丸さまのお嫁さんになれるだけでりんは幸せって思ってた。殺生丸さまと一緒にいられるだけで幸せって。それなのに、殺生丸さまの昔の女の人のことでやきもちなんかやいてごめんなさい。殺生丸さま、こんなにきれいなんだもの。たくさん女の人から好かれるよね。妖怪であろうと人間であろうと・・・だから・・・」
「・・・・・りん。お前は激しく思い違いしているぞ」
「思い違い?」
「私は他の女になぞ興味はない。まったくない。昔も今も、これからも、だ。私にとって女というのは、りん、お前ただ一人だ」
「殺生丸さま・・・」
「お前と旅していた頃も、お前を里に預けて成長を待っていた頃も。お前を私の手で甦らせたあの時から・・・私にとっての女というのはお前だけだ」
「殺生丸さま・・・・」
「だから、私のことを嫌いなどというな」
「はい・・」
「あの言葉は真意ではないな?」
「はい・・・」
「私を好いておるな?」
「はい・・・殺生丸さま・・・好きです、大好きです・・・」
「りん、ずっとそう言っておれ」
殺生丸はりんを取り戻したうれしさにほっとしながら、りんを思いっきり抱きしめた。

(りんの匂いだ・・・)

「りん・・・続きをするぞ」
「え?」
「三日前の続きだ」
「あ・・・」
「まったく、どんな思いで私が三日間耐えたと思っているのだ」
「ごめんなさい・・・」
「もう謝らなくてよい。それより、りん、声を聞かせよ」
「殺生丸さま・・・」
「私を好いておると、わからせるのだ」
「はい・・・殺生丸さま・・・」

殺生丸はりんの唇をそっと吸った。
「りん・・・これは初めてだぞ」
「え?」
「唇を合わせたのは、りんが初めてだ」
「あ・・・・」
そしてりんの耳をそっと噛む。
「これもお前が初めてだ」
「ああ・・・」
次に殺生丸はりんの喉をやさしく吸った。
「これも、りんが初めてだ」
「せっしょう・・・まる・・さま・・・」
「りん・・・」
殺生丸はりんを花の上に横たえた。
「りん。三日分お前をいとおしむ。覚悟せよ」
「はい・・・あなた・・・」

その後の二人の睦みあう姿は神々しいほどであった。殺生丸が大切な妻の名を幾度も呼ぶ声が響いていた。






作品名:殺生丸さまの受難 作家名:なつの