二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

月とあの歌(仮)

INDEX|1ページ/1ページ|

 

そう…その夜は月が綺麗だった。

ただ…それだけだった。



『あいやぁ〜今日も月が綺麗あるなぁ〜』

雲ひとつない、よく晴れた夜…

王耀が縁側で月を見るのはもはや習慣と言ってよかった。

自分がいる以外に何もない縁側に腰掛け、何をするわけでもなく月を眺める。

その時に考えるのは、様々だったが…その日はいつもとは少し違った。

何が違うのか…それは本人にすらわからない様な、本当に少しの違いであった。

『…何だか急に歌いたくなったある…。(誰も聴いてないし…いいあるよね…?)』

前は楽器を奏でながら歌ったが…今はそんなことを気になどしなかった。

すぅ…っと空気を吸い込み静かに…しかし、かみしめる様に王耀は歌い始めた。

以前…何よりも大切にしていた彼に歌い聴かせていた歌を…。


『天地の始まり〜♪』

(この歌…あいつに聞かせたと時から昔話あるな…。けど今では…この歌を歌ってやったことさえ昔話ある…。)

『長江のほとり〜♪』

(であった頃は…ホントに可愛かったあるなぁ…。まぁ…初対面で生意気だったあるが…。)

『我侭できたむかし〜♪』

(あいつと出会ってから…日々が目まぐるしく過ぎていったある。)

『目覚めたら〜♪』

(誰よりもも強い…そんな我だけを見ていてほしかったある…。)

『あの日竹林で〜♪』

(ホントに育つのが早かったあるなぁ…。可愛くて賢くて…我の自慢だったある。)

『一緒に眺めた〜♪』

(我は覚えてるある…。お前と見た月は…どの月よりの綺麗だったある…。)

『広大な地を〜♪』

(共に歩んできた道…あの先も…共に歩けるはずだったある…。)


(時代は流れていくある…。我やお前には…どうすることも出来ないこともあるよ…。)


『果てしない〜♪』

(……き…く…、…きく……、菊っ!!会いたいある…。また…共に歩みたいある…。)


『例え……』


歌いきった王耀はふぅ…と小さなため息をつく。

『はは…は。こんなこと…本人の前じゃ絶対に言えないあるな…。』

乾いた笑いをひとつし、素直になれない自分に苦笑いを送る。

ずきり…まだ完全には癒えていない古傷がうずいたような気がした。

そして再び切ない顔をして、月を見上げる………

瞬間、後方でふわっと暖かい風が巻き起こり、背中に暖かい熱を感じた。

振り向かなくてもわかる…、この暖かは…会いたくて、会いたくて仕方なかった…彼だ…。

『き…く…?』

『す…すみません。あの…もう少しだけこのままで…』

背中に感じる暖かな体温…。

会いたくて仕方なかった菊が、ここに居る。

我に触れている…。

今のままでも十分すぎるほど幸せだ。

しかし…

『…このままでもいいあるが…我はお前と一緒に月見がしたいある。我の横に来るよろし?』

王耀に諭され、菊は王耀の横に座る。

なぜ菊がここに居るのか…そんなことは今の王耀にとってはどうでも良かった。

どちらからともなく…2人の指先が触れ、2人は目を見合わせ…ふわりと笑う。

月明かりで分かり難いが…2人の頬はほんのりと染まっていた。


『なぁ…菊…月が綺麗あるな。』

『はい…王さん…月が綺麗ですね…。』

この言葉の裏に隠れている意味は…本人達と2人を照らす月だけが知っていればいい。



月が綺麗な夜。

2人以外にはただ、それだけの夜。
作品名:月とあの歌(仮) 作家名:雪夏