【青エク】 無題
at a later time.
カララン
喫茶店の扉が閉じる音が店内に響いた。
この喫茶店、それぞれの客席を植木で仕切っているのだが、緑多いその内装が好評と言う事で連日、客足が絶えなかったりする。
そんな中の一席。
未だ中身の残ったグラスが二つだけ、置かれた無人の席があった。
片方はアイスコーヒー。
片方は、明るめの色のジュース。
氷は殆ど溶けて、グラスは酷い汗を掻いている。
くすんだ色が基盤の店内で、そこだけ不思議と色鮮やか。
そんな、妙に気を惹かれる席の ―――― 隣。
テーブルの上身を伏せブツブツと呟いている客が居た。
当然、その周囲に居た客は薄気味悪い彼の人物に対し不審げな瞳を向けているのだが当人、全く気付いていない。
いや、気づいているのかもしれないが彼自身歯牙にも掛けない、と言った所なのかもしれない。
「……くそっ!あンの野郎ぉ…っ!僕の姉さんを…僕の姉さんなのにっ…トサカ頭のガリ勉野郎メェ…この恨み…っ!」
ハ ラ サ デ オ ク モ ノ カァァァ …ッ!!!
遅番だった姉を迎えに行った今朝方。
まさか、店の前に友人の姿が有ろうとは思いもよらず。
沸々と沸き起こる苛立ちのままその身を蹴飛ばしてやろうかと思ったモノの先に開かれた、料亭の扉。
慌て、咄嗟に電柱に隠れた事、今なお悔やみ続けている。
そこから今に至るまでずっと、陰に隠れ身を潜め、二人の様子を伺っていたのだがいやはや、とんでもない事になった。
大事な姉へと伸ばされた、毒牙。
今こそ、弟である己が彼女を守らなくては。
ドス黒い誓いが此処に、深く落とされた訳だが・・・・果たして守られる事はあるのだろうか。
分からないけれど、一つ確かな事は。
ゆらゆらと。
彼の背中より立ち上る目に見えぬ黒い靄が店内を包み込みゆくのにこの日、気分を害する客が後を絶たなかったと言う、事実だけだ。
【終わり】