再開の祝杯
仕事の話だと思い足を運ぶとなぜか飲みに行こうとのことだった。
「まて、なんだこんないきなり、人の予定くらい考えろ!」
「どうせたいした用はねぇだろ、お前がいなきゃ始まらねぇんだ、いいから来いよ。」
もちろん参加するつもりなどまったくなかったのだが、
本多の持ち前の強引さには勝てず、
反論むなしく結局行くはめになってしまった。
連れてこられてやってきたのは一軒の居酒屋だった。
こじんまりとしているが活気があり、いかにも本多の選びそうな店だ。
中に通されるとテーブルにはすでに佐伯がついていた。
本多についてやってきた松浦を見て驚いた顔をしている。
席につくとさっそく店員にビールを注文する。
「本多、松浦も呼んだのか?」
「あぁ、当たり前だろ。」
おしぼりで手を拭きながらさも当然のように言い放つ。
「本多からのメールでここに来るように言われただけで、営業先から直接来たんだそんなこと知らないぞ。」
向こうも急に誘われたらしく本多の物言いに呆れた顔を見せている。
「それで、そもそもなんの祝いなんだ?」
一息つくと当初から感じていた疑問を口にした。
めでたいめでたいと本多は騒いでいるがなんの祝いなのかわからず、
自分がいなければならない理由も検討がつかなかった。
仕事でやり取りしたプロトファイバーという商品が記録的な売り上げとなったことは知っていたが、
それもずいぶん前の話だ、今更祝杯というのも遅すぎるだろう。
なにより取引はあったものの伊勢島デパートは直接的には関係がない。
「あぁ、なんでも新しい発表があって、声が決まったとかなんとかで・・・。
まぁなんでもいいじゃねぇか、とりあえずめでたいんだ、飲もうぜ。」
主催した当人もよく分かっていないのか質問を打ち切るように満面の笑みを浮かべると、
店員に運ばれてきたビールを受け取り回していく。
あまりのいい加減さに言葉も出ない。
佐伯も似たような気持ちなか隠れて小さくため息をつく。
こいつは昔からそうだ、強引でいい加減で周りを振り回して。
でも、いつも最後にはみんなあの笑顔にごまかされて押し切られてしまうんだ。
静かに嘆息しながら手渡されたビールを受け取る。
「んじゃいっちょ、乾杯!!」
うれしそうに威勢のいい声をあげる。
それにつられジョッキを高らかに重ね合わせた。