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初詣

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元旦ともあり神社への道は初詣へ向かう人でごった返していた。
肌を刺すような冷え切った空気の中、克哉もその流れに乗り、
待ち合わせの神社の鳥居の前へと足を急がせる。
「おーい、克哉、こっちだ。」
聞き覚えのある声に振り返ると、
周囲から頭一つ抜き出た二人組み発見した。
ひしめく人を掻き分けながら近づいて二人のもとへとたどり着く。
「ごめん、お待たせ。」
来るまでの道がここまで混雑するとは思わず、
すっかり待ち合わせの時間をすぎてしまっていた。
もう少し早く家をでればよかったと胸中で軽く反省する。
「俺たちもまだ来たばっかだから気にすんなよ。」
本多はそんなことまったく気にした様子もなく、
ニカッとっと寒さにも負けない輝かしい笑顔を浮かべる。
それに引き換え松浦は憮然とした表情で押し黙っている。
「松浦、遅れて悪かったな・・・・。」
申し訳なく思い愁傷に謝ると、相手の表情を伺う。
「まったくだ、いつまでこいつと二人きりで待たせるつもりだ。」
本多をにらみつけると不機嫌そうにそうはき捨てた。
どやら待たせてしまったことではなく、
二人きりにされたことが気に入らないようだった。
「まぁまぁ、ちょっとくらいいいじゃねぇか。」
松浦の気持ちに気づいたふうもなく容赦なく肩をバシバシと叩く。
「そもそもなんでせっかくの休みにお前らと一緒に初詣に行かなきゃいけないんだ。」
痛そうに顔をしかめながら本多の手を避け、
横顔を睨みつけて反論する。
キクチマーケティングは年末それなりに忙しかったものの、
本多ともども克哉もある程度まとまった正月休みがもらえた。
しかし松浦の方はデパートは今がかきいれ時であるため、
先月から連日残業続きで多忙を極め、
やっと久しぶりに休みが今日一日だけもらえたらしい。
しかしそれも運がいい方のようだった。
それを知った本多が例によって強引に誘ったのだ。
「やっぱり忙しいのか?」
「あぁ、年末年始はいつものことだ。」
もう慣れたといったようで、さすがに三年目となるとそんなものかのかもしれない。
しかしなんだかんだと言ってはいるが松浦も本気ではないのだ、
でなければせっかくの休みにこうして付き合ってくれたりはしないだろう。
克哉にはそれがちょっとうれしかった。
「そういや克哉、誕生日おめでとな、昨日は祝えなくて悪かったな。」
「ありがとう、年末だからいつもそんなもんだよ。」
昨日は年末の仕事も一段落つけることができ休みはもらえたが、
やはりみんな年末の忙しさからは逃れられないのか、
一緒に過ごす相手も見つけられず、
この年になってはしゃぐようなことでもないので、
克哉自身も特にこれといって祝ったりなどはしなかった。
「よし、今日はおれのおごりだ、なんでも好きなもの食え!」
遠慮しようとする克哉には目もくれず勢いよく並んでいる屋台を目指し駆け出していった。
ひしめく人波の中を一つ抜き出た頭が進んでいくのがよく見える。
しょうがないなぁ、と思いながらも相変わらずの行動力に苦笑する。
「佐伯、誕生日だったのか?」
克哉と同じく置いていかれた松浦が突然口を開いた。
「まぁな、年の最後とかやめて欲しいよな。」
ややうんざりしながらつぶやく。
子供のころなどは誕生日単体で祝った記憶などなく、
そのたびになにもこんな日に生まなくてもと思ったこともあった。
「・・・・・・なぜ教えてくれなかったんだ。」
冷めた声音に思わず振り返るとそこには不機嫌そうな松浦の横顔があった。
なにをそんなに怒っているのか分からず軽く混乱する。
「あっ・・・、でもだって大晦日だぞ、松浦も忙しかっただろうし・・・。」
「教えてなかった理由にはならないだろ。」
「っ・・・、ごめん・・・。」
あまりに真意な口調に、申し訳なく思いうつむいて足元に目をやる。
正直こんな風に気にかけてもらっているとは考えもしなかった。
自分さえ気にもとめず、たいしたこともしていなかったのだ。
にぎわう周囲の中でそこだけに気まずげな沈黙が横たわる。
「今年は・・・・。」
「えっ?」
松浦の言葉に驚き顔を上げると、真剣に前を見つめる横顔があった。
「今年の誕生日は絶対祝うからな・・・・・。」
そういうとすぐに照れたようにそっぽを向いてしまう。
胸の中にどこかうれしいような、恥ずかしいような、
ほのかにむずがゆい感覚が広がっていく。
「・・・ありがと、そうだな。」
熱くなる頬がを意識しながらはにかんだ笑顔を浮かべる。
「じゃあ今度は松浦の誕生日も教えてくれよ。」
「・・・・・・・・・・あぁ。」
ぶっきらぼうで短いが、その返事に心が緩む。
両手いっぱいに食べ物を抱えてこちらに向かってくる本多を視界の隅におさめながら、赤く染まった顔を見たらなんていわれるだろう。
そんなことを考えながらも心地のよい雰囲気に浸っていた。
作品名:初詣 作家名:天戯