罰ゲーム
大声を出して叫びたいのをこらえ必死に感情を抑えこんでいた。
ある休日のこと松浦は本多に誘われ佐伯と共に草バレーの練習に参加していた。
その日の練習を始めようとしたとき、メンバーの一人がゲームをしよう言い出したのは突然のことだった。
体育会系はこういうノリが好きだ、なので誰も反対する者はいなかった。
むしろ大半の連中は嬉々としてこの案に乗った。
ゲームの内容はこうだ、
今日の練習試合中にサーブでミスが一番多かったヤツが罰ゲームを受ける。
なんてことはないただの仲間内のお遊びである。
罰ゲームの内容はあとでのお楽しみと言い渡されたが、
今思えばそのとき無理にでも聞いておくべきだったと激しく後悔する。
試合中はゲームのこともありほとんどのメンバーがミスをしまいといつも以上に気合を入れていた、
そのためミスをしたやつが負けという様相を呈していた。
そんな中松浦は運悪くサーブを一度ネットに引っ掛けてしまい罰ゲームを受けるはめになってしまった。
このときも松浦は罰ゲームの内容を甘く考えていた、
学生の頃などにもよくやっていたものでメンバー全員にジュースをおごるとか、
その程度だろうと高をくくっていたのだ。
なので罰ゲームの内容を聞いたときは激しく抵抗した、
しかしながら多勢に無勢、人の不幸はなんとやら、
基本的に面白いことが大好きな面子の集まりである。
松浦一人の抵抗などむなしく結局は押し切られることになってしまった。
感情を抑え込み心を落ち着けるとあらためて自分の姿を見やる。
濃紺を基調としたロングスカートのワンピースに白いエプロンドレス、
スカートと同じく濃紺のハイソックスを履き、頭には白いヘッドレスをつけている。
いわゆる世間一般で言うメイド服というやつだ。
メンバーの言い出した罰ゲームはこのメイド服を着用し打ち上げの席で全員にお酌をするというものだった。
いったいどこから調達したのかそのメイド服は男が着るような大きなサイズだ、
本多な体格のいいやつが着たらかなり見苦しいことになりそうだが、
松浦にはちょうどいいくらいだった。
本人は気づいていないようだが濃紺の生地は松浦の白い肌に映えよく似合い、
余計にメンバーの注目を集めていた。
松浦はそんな周囲の視線に羞恥心を抑え切れずレースのついたエプロンの裾を握り締める、
しかしそんないじらしい態度や頬を染める姿が可愛い!
などどいうふざけた野次まで飛んでくる。
その中には顔面の筋肉が緩みまくったようなにやけ顔の本多と、
どう反応していいか困ったようにこちらを見ている佐伯の姿もあった。
「松浦、似合ってるぜ。」
よりいっそうにやけた顔で言ってくる本多に対して殺意が芽生え始める。
「えーと、本多が着るよりは似合ってると思うよ・・・。」
不穏な空気を察したのか佐伯は佐伯でフォローにならないフォローをしてくる。
「佐伯・・・、本気で言ってるのか?」
「ははは・・・・。」
剣呑な視線を向けられ乾いた笑いをもらす。
「そもそも、佐伯はサーブを打たないんだからミスをするはずがないだろ、ずるいじゃないか。」
「まぁ、確かにそうだけど・・・。」
やり場のない苛立ちから八つ当たり気味にくってかかる、
そんな松浦に佐伯は苦笑を返すしかない。
「おいおい、往生際が悪いぞ。お前だって反対しなかったんだから今更文句言うなよ。」
庇うような本多にむっとしながらもその通りのため反論できず押し黙り、
いやいやながらも他のメンバーへとお酌を続ける。
それから数時間は死ぬほど長く感じられまるで地獄のようだった。
お酌をしにいってからかわれるだけならまだいい、
スカートをめくってこようとしたり、あらぬところへ手を伸ばしてきたり、
中には携帯をこちらに向け写真を撮ろうとする輩もいたが、
撮影されることだけは断固として阻止した。
そんなこんなで終わるころには主に精神的な意味でぼろぼろになっていた。
「お疲れ様・・・。」
「ご苦労だったな、松浦。」
疲れきった松浦に佐伯と本多がねぎらいの言葉をかける。
「もう絶対、二度とこんなゲームするもんか・・・。」
二人に対し心底いまいましげな表情でつぶやいた。