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優しさを食らい尽くしたその口で、愛しさと切なさを叫ぶのならば

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コンコン…静かに存在を伝える音が聞こえた。
掛け声と共に扉が開き、入ってきたのは愛しの彼女だった。

「ボス…お邪魔じゃない…?」

おずおずと控えめに問いかける声はやっと聞こえるかそうでないか。
勿論聞き漏らす筈はない。言葉の代わりに笑みで答える。

「こんな夜にどうしたの?」

頃は夜更け。深夜と表す時刻だ。
殆どの者は就寝しているであろう時間帯に尋ねてきた恋人。

何かあったのだろうかと心配するのも無理ない。
立ち続ける彼女に手招きをして自分の隣に座らせた。

「…ボス、わたし…骸さまを助けたい、」
「…うん…」
「骸さまは、恩人…私に居場所を与えてくれた大切な人だから…」
「大丈夫、俺も骸を助けたいんだ」

ヴィンディチェの水牢に繋がれた骸は今でもそのまま。
ただ、彼女を通じて話すことは出来る。
…彼女を通じて。

骸本体はどうにもならないだろう、とリボーンに言われた時、心臓が凍りついた。
俺のせいで…と罪悪感に駆られた。

けれど、骸の犯した罪に目を瞑るほど俺は10年前ほど甘くはなれなかった。

…正直、骸に妬く。彼女の恩人は骸だ。
だから大切な人、と認識するのは妥当だ。
だけど俺の心が、軋んでる。傷ついてる。

俺は、昔のように自分に甘い人間にはもう、なれない。
だから俺はこうして彼女に意地悪を仕掛けるんだ。

「…クローム…俺と骸どっちが…好き?」

彼女が戸惑うような悲しいような表情を浮かべるのを知ってる。
唇を噛み締めている様子を見て少しやりすぎたか、と反省。

泣きそうな顔をしている彼女を抱きしめた。

「ごめんね…ちょっと意地悪しちゃった」
「ボ、ス…」
「うん、分かってるよ。俺も骸が好きだから、大丈夫。…クローム」

俺に出来ることは、彼女を優しく愛で包むこと。
それがどれだけ自分にとって辛いかなんて重々承知だ。

辛い、なんてものじゃない。
例えるならば、虚しい、だ。

「ん、…」

その小さな唇を食むように吸い上げた。
僅かに寄せられる眉が何故だか凄く嬉々しい。
自分だけを見てくれているのだ、と分かる。

唇を離した後、彼女は必ず俺に抱きつく。
それは縋る何かが欲しいからだと俺は思う。

いや、思っていた。

「ボス、聞いて…?」

凭れながら彼女はたどたどしくも言葉を紡いだ。
俺も静かにそれに耳を傾ける。

「あのね…骸さまとボス…どっちも大切なの…選ぶことなんて出来ない…」
「うん…」
「でも、でもね…?私の恋人はボスだけ」
「…!」

心臓が跳ねたのがよく分かった。
彼女の言葉が心を満たしていくようだ。
心が、胸が、だんだん潤いを取り戻していく。

「恋は、好きな人を…ボスを選ぶわ」

言われたかった言葉。聞きたかった言葉。
1、2番目…数字の順位ばかりに拘って自分に嘘を吐いていた。
そんな自分とはもうサヨナラだ。彼女に満たされた心が乾くことはない。

「だから、だからね…ボス、「クローム」…ッん、ぅ」

もう十分だ。
言葉で伝えなくても感じればいい。
貪るように、愛を伝えるように口付けた。

「ありがとう」

彼女の優しさと自分の弱さにに完敗だ。
もう一度お礼の代わりにキスを彼女に贈ろうか。

それとも、
(優しさを食らい尽くしたその口で、愛しさと切なさを叫ぶのならば)
「愛してる」と伝えようか。


fin.