次第に見えなくなる愛に涙した
私は自分にもう一つの誓いを立てた。
「京子、おいで」
時折、感情のない瞳で私を見ていた貴方。
その表情を見るたび私の心は張り裂けそうになる。
伸ばされた腕は微か震えて、求める。
「きょうこ、きょうこ、」
腕の中に閉じ込めるようにして抱きしめられる。
彼の胸に頭をあずけて、鼓動を聞いていた。
とくん…とくん…
一定のリズムで波打つ心音に安心する。
彼はちゃんと私の前に在るのだと分かったから。
10年前に比べて彼は成長した。
たくさんの力を手に入れた。
そして、傷ついた。
「うしないたくない…まもりたい…、こわい」
抱かれているのは私なのに。
我が子をあやす母親になった私。
愛しさに寂しさ、虚しさと優しさを込めて。
「ツっ君、大丈夫…大丈夫だよ」
決して、涙は見せない貴方だから。
だから代わりに私の頬から零れて伝う。
「怖いことはもう、何もないから」
次第に見えなくなる愛に涙した
神様、どうか彼に穏かな慈悲をお与えください。
でなければ私に彼の肉体と精神を縛る鎖をください。
自由を求めるには誓いを貫かなければいけないと知ったから。
壊れていく彼に私が死ぬときまで、ただ一つ。精一杯の愛情をあげたいの。
fin.
作品名:次第に見えなくなる愛に涙した 作家名:煉@切れ痔