どうして、
誰にも縛られてはならない。
そんなこと俺が一番良く理解してる。
十年前がとても眩しく思い出される。
あの頃は、と表せるまでになった今。
十年後の今では何もかも分かっていた。
「隼人」
俺を『隼人』と呼んだ十代目。
十年前では『獄寺君』とありえなかった。
「はい」
もちろん、嬉しくないわけじゃない。
けれど何かが違うんだ。
「この書類を同盟国の各機関に手配して」
あまりにも違いすぎる十代目。
それは容姿であっても全てにおいても。
「分かりました」
ボスに就任して、もう三年が経った。
十代目は既にボスとしての資質を具えていた。
それなのに俺はこの方のどこが不満なんだろうか。
俺は何が、気に入らないんだろうか。
「隼人」
「…はい」
俺はこの数年間、十代目の事しか考えていないような気がする。
こんなにも誰かに執着したのは人生始まって以来始めてだ。
十代目を見れば判を押していた手を止めて俺を見ていた。
そしていつものように柔らかそうに微笑んで言ったんだ。
「それが終わったら、一緒にどこか温かいものでもどうかな」
俺の内なる考えを読み取ったのか、デートの誘いだった。
あまりにも急な誘いだったために俺は予定も見ずに頷いてしまった。
それに気を良くした十代目が俺の頬にキスを落とす。
そして逞しくなった腕に俺の腕を絡めさせて言った。
「行こうか」
ああ、優しい十代目。
貴方はとても利口な方です。
人の人生とは何故儚いものなんだ。
十年前の十代目、聞こえていますか。
(どうして、)
俺は疑問を言葉にする声が出せません。
その一言にほんの少しの勇気がありません。
fin.