あいつはろくでなし
「よし、」
まだ少しだるさが残る体に鞭打ってベッドから出ようとした時だ。
俺をこんな無力な体にした元凶がまだ俺に何か用があるらしい。
昨日散々弄ばれたその長い指がゆっくりと俺の頬を求めてきた。
「…どこへいく」
頬にあてられた手が温かくてホッとした。
そして不機嫌な声音を聞いた体が疼く。
「別に」
どこにもいかないよ、と嘘を吐いた。
本当はベッドから抜け出して仕事をするつもり。
今日は二人ともようやく一緒の休日。
だけど染み付いた習慣はなかなか掃えない。
いつものように執務室に直行するはずだったのに。
「俺よりも紙切れの整理なんていい度胸だな」
「仕事なんだから仕方ないだろ」
「今日は休みだろ。お前の悪い癖だぞ」
そう腕を引かれ俺はまたベッドの中に戻された。
感が効くこの男はいつも気付いてしまう。
俺が何かを仕掛けたりしても見破ってしまう。
そして、何度も俺を落とすんだ。
「そうか、まだ足りなかったんだな」
「もう、いい…っ」
動いていないとまた熱がこもる面倒な体。
こんな不便になるのはこいつ抱かれた後だけ。
「リボ、」
重ねられた唇から全てが奪われる。
もう、何もかも通用するものがない。
俺を押さえつけて、魂まで貪るような。
まるで本物の死神のような奴。
「俺様の愛をたっぷり受けとれよ?」
いいや、違った。この男。
死神よりもタチが悪いかもしれない。
(あいつはろくでなし)
溢れるほどの愛だけを押し付けて、俺をこんなにも離してくれない。
にやり、意地の悪い笑みを浮かべる。
お前の言動と行動の何もかもがエロイんだよ。
fin.