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漆黒の国道をレンタカーのヘッドライトがぼんやりと照らしている。
先行車の赤い尾灯もなく、後続を照らすライトもない。
バックミラーには、自分の車の吐き出した白い排ガスが、
まるで船が残す、航跡のように、
うっすらと続いていた。

ひたすらに、
ただどこまでも続く、湿ったアスファルトの上を
噛むように走る車。

開け放ったサイドウインドウからはしゃりしゃりとタイヤノイズばかりが、
飛び込んでくる。
......
規則正しく、そして苦しげに喘ぐように..

国道の左側は、海だ。
月の明かりの粒が、凪いだ波にいくつも浮かんで見える。
微かに松籟が聞こえてくる。
どうやら崖の下は、松林らしい。

街の明かりが遠くに見えた。
ほっとして、気が急いたが、
たどり着くには、あと二つ三つ山を越えなければならないだろう。
私は、首のあたりを軽くもむと、アクセルを軽く開き、エンジンに鞭をいれた。

思った通り小さな街だった。駅前の商店街は、ほとんどシャッターを閉めており、
これでは、今夜の宿どころか、晩飯にありつくのさえ無理なようだ。

アーケードの終点あたりにスタンド看板の火が灯っている店を見つけた。

安っぽい合半のドアには、小さなプレートが打ち付けてある。

「Gypsy moth」    私は、ドアに肩を押しつけるようにして店に入る。
準備中かと思えるほど静かで薄暗い店内に客はなく、L字型のカウンターには、
陰気な雰囲気の女が、肘をついて新聞を読んでいた。
ゆっくりと目を上げると「いらっしゃい」と憂鬱そうに請じた。

私は、軽くうなずくと、L字の短い棒の方へ座った。

「なににしますか?」

「ビールを、それと何か食いものは、できないかな?簡単なものでいいんだが.....」

「スパゲティとかそんなものだったら、あとは、出前なんかもとれるけど...」

「いや、スパゲティでいいよ、面倒でも、たのむよ」

私は、ビールを飲みながら、カウンターの隅に置いてあった、手相占いの本を読んでいた。
案外、結婚運などが良いらしい、苦笑していると、湯気をあげたスパゲティが目の前に
置かれた。

頭上のスポットライトにリンプンをまきちらしながら、白い蛾がまとわりついている。
しばらくライトの周りを飛びつづけていたが、やがて厨房のほうへ飛んで行った。

私は、なんとなくこの街にしばらくいることになりそうだ、と思い始めていた。

「この街には、仕事?観光ってことは、ないわよね、なんにもないし」

「そう、仕事さ、日用品の展示販売ってやつ、奥さんいらっしゃい。この包丁良いでしょう?
なんてスーパーとかで良くやっているやつ」

「嘘ね、そんな荒んだ顔をした、販売員なんていないわよ。売れるわけないわ」

女は、そう言って笑った。

笑顔は、きれいだが、やりきれないような寂しさが面に刷かれていた。


窓の外は、雨が降り始めたようだ。

音楽のない静かな店内に、聞こえてくるのは、前の通りをたたく雨の音と、

どこかで男女が争う声だけだった。

「じゃ、またくるよ、ごちそうさま」

俺は、ビールとスパゲティをたいらげると、腰をあげた。

商店街を抜けて、駅の反対側にあった、ビジネスホテルを今夜の宿に決め、
1週間分の宿泊料を前払いした。
蛇口がややバカになっている、たよりないシャワーを浴び、階下までビールを買いに行く。
やや寸足らずな、浴衣が落ち付かないが、なにより宿泊料が安いことが気に行った。
薄暗いロビーの隅にある自動販売機で、缶ビールを二本買い、部屋へ帰る。
人気のない廊下には、どこかの部屋からかすかにテレビの音が漏れ聞こえている。
部屋に戻るとボストンバッグの中で携帯が震えていた。
ディスプレイには、妻の名前が明滅している。
何度も着信があったようだが、一度も出ていない。
それでも電源を切ることは、できない。

いったい私は、どこへ行こうとしているのか?
妻や子供、建売の小さな家....すべてが疎ましく、息苦しかった。

そして今は、ひどく懐かしい...


カーテンの隙間から朝日が漏れてくる、どうやら雨はあがったようだ。

私は、小さくため息をつくと、勢いよくカーテンを開けた。

「毒蛾か........」



月末の駅前通りが、混雑し始めた。

交差点では、クラクションがけたたましく響く。

街は、嫌味なくらいに活気にあふれていた。

雨に洗われた街路樹の緑がしっとりと濃く、

歩道の上にわずかに残った水たまりは、

朝日を受けて、キラキラと輝いていた。



作品名: 作家名:SORATO