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五月

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「あー明日から仕事行きたくねぇ~~www」

自由に手足を広げて自由に発言する彼を見やる。
ぐぐぐぐー‥と伸びたと思ったら力尽きたかのようにへにょ~と縮んでいくのが見えた。

「八宵‥」
「もー月曜日爆発しろw まじ爆ぜろwww」

彼のそばに近づいて彼のそばに腰を下ろす。

ここ数日はこの国のGWというものだった。
自国にはこんな連続休暇などなかったので驚いたものだったがまあこの国の人はずいぶんと心得たものだった。
久々の休暇にはしゃぐ人とそれを狙う商売人のまぁ鮮やかな事!
どこに行っても至りにつくせりだった。
二人は主に温泉巡りに行っていたのだがどこに行っても困った思いはしないで終わった。
一つは温泉をテーマにしたレジャー施設みたいで色々な温泉があった。

電気風呂からミルク風呂、日本酒風呂には大層ウーリッヒは驚いたものだった。

『え、飲めるのですかそのお風呂?!』
『飲めねえしw むしろ人が入ったダシ入り酒とか飲みたくねえおwww』

‥驚いたものだった。

他にも滑り台があったり足つぼ刺激の為か道中の敷石に二人悲鳴を上げて騒いだりした。
八宵がどこか悪い所があっても不思議ではないけど自分までどこか悪い所があるなんて‥!
と真顔で言ったウーリッヒには見事な紅葉を八宵から頂いたりした。

その近場には秘湯もあるらしくそちらにも出向いた。
大衆向けのレジャー施設から来たからだとは思うけど、そこは静かで趣のある良い旅館だった。
時間で個人風呂も出来ると聞いたので二人で出し合って少しの時間貸切にしてお酒を飲んだりしてくつろいだ。
あれは本当に良い湯でお酒でした‥!


帰り道にドクターフィッシュもあった。
10分いくらとかで体験出来るとあったのでそれも試してみた。
ドクターフィッシュは人の垢を食べるだかで足をつつかれるのが‥‥正直くすぐったくてたまらなかった。
でも八宵はそう思わなかったらしい。
『ちょw俺の足食われてるwwwちょおまwww』

‥楽しんでいたと思う。
ちょっと椅子からずり落ちそうになっていたけれど。


そう、この数日ずっと二人きりで遊び倒していたのだ。
それもとうとうラスト日になった今、現実に戻るのが嫌なのだろう。
ぐずりだした彼が可愛くもあり困ったりでもある。

「八宵‥、私これから帰国しなきゃなんですよ。せめて笑って送り出すぐらいして下さいです‥」

それに対してあーだのう~~だの言ってその辺を転がりだした。

「八宵」

そっともう一度名前を呼ぶとやっと転がるのをやめてくれた。

「‥帰らなきゃいいだろ。またこっちにk」

ぺちん、と八宵の顔に手をあてた。
痛かったのかただビックリしたのか、声も動きも止まった。


ウーリッヒはこちらに留学していた。
そこでバイトしていた先で八宵と出会ったのだ。
今からかれこれ数年はもうたっただろうか?
最初は落ち着きのない言葉に動作だったので絶対自分より年下だと思っていたのに実は年上だと知った時はそれはもう驚いたものだった。

『え、年上?!』
『むしろお前が俺より年下な件について←』
『嘘です!こんな落ち着きなくて小さい‥‥年上?!』
『大切な事なので二回言いました(笑)』


でも年齢を感じさせない彼にどんどんと惹かれていって帰国した今でもたまに国を行き来して会っていた。
そうして暖めてきた時期はそれなりになるのにやっぱり帰国の時は少し寂しいものだった。

だって何度繰り返しても彼は別れ際寂しそうな顔になるから。
『また来ます』とも
『また来てください』とも言ったがどうにも慣れてくれない。

いつもは騒がしい彼がいじけたように目を合わせてくれなくなる。
口数も減る。
全身で行くなと訴えてくるオーラ。

これはすなわち自分を必要としてくれているからなのだろう。
彼の周りには少なくてもそれなりの友人もいるのに自分だけに向けられる求められているというこの実感。
こんな時はまた彼が愛しいと再確認してしまう。
彼の顔を覆い隠す手に熱がこもる。

「八宵」

ゆっくりとかみ締めつつまた温泉行きましょうねとつづる。
手のひらの彼の顔がくしゃりとゆがんだ気配がした。


自分のせいでここまで心を揺すぶられる彼に後ろ髪を引かれつつ彼の顔から手をどけてそっと触れるだけのキスを送る。
この寂しさを自分だけでかみ締めて、そして私を思っていてください。
いつまでも私という存在に捕らわれていてください。
私も今回の楽しかった記憶と再確認した愛しい八宵を思って頑張りますね。

最後ににこりと微笑んで見えたのにやっぱり八宵は不満そうに頬を膨らませていた。
作品名:五月 作家名:へべれけ