ぺよん詰合せ
「偶にはアイツを驚かせてやろうか」
そんな一言で始まった今日の夕飯作り。けれども今まで碌に料理なんてしてこなかったお父さんと、簡単なものしか作れない私では上手くいく筈もなかった。
台所は瞬く間に空き巣に狙われた後の様な、見るも無残な惨状になってしまった。勿論、ご飯なんて出来ている訳が無い。
途方に暮れて佇む二人に追討ちをかける様に、玄関の扉が開く音が聞こえてくる。
数秒もしない内にただいま、と台所に来たお兄ちゃんは、この惨状を見て絶句してしまった。次いで、苦笑い。
何か言わないと、と焦る私とお父さんを余所に、お兄ちゃんは「ちょっと待って」と言い残すと部屋に戻ってしまった。
お父さんのズボンをぎゅうと掴んで、必死にどう謝ろうかを考える。すると着替え終えたお兄ちゃんが下りてきて、おまたせ、とふわりと笑って言った。優しい声。怒ってなんかいないよ、っていう。
「これを片付けたら、皆でもう一度作ろうか」お兄ちゃんは言う。
いよいよもって泣き出しそうな私に、お兄ちゃんは目線を合わせて優しく頭を撫でてくれた。
「ごめんなさい」
それにつられるかの様に、素直に言葉が私の口から出てくる。
散らかしてごめんなさい。迷惑かけてごめんなさい。折角買い置きしていた食材だって、無駄にしてしまった。ぼろりと涙が零れる。
「――お父さんと一緒に作るの、楽しかった?」
ふいに問われて首を傾げる。言われた内容を遅れて頭に叩き込み、慌ててフル回転させる。
楽しかった?一緒に?お父さんと?
―――その答えは無論、是だ。こくりと頷く。
その答えにお兄ちゃんは満足したかの様に笑うと、私にこう告げた。
「じゃあその楽しいのに、お兄ちゃんも混ぜてくれないかな」
ただ頷く事しか出来ない私に、お兄ちゃんはそれはそれは嬉しそうに―――ゆうるりと、笑った。