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むかしばなし

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小学校に入学して二週間の登下校は保護者同伴で授業も午前二限だけでそれだけでも二郎は毎朝頭痛を訴えたり腹を下したり頭と腹以外の体のどこかを痛がったり本当にちょっと熱が出たりしていたのだけれど初めてひとりで登下校しなくてはならなくなり授業数も多くなったその日二郎は朝の会が終わると同時にぴかぴかのランドセルも給食袋も置いたまま教室を飛び出して玄関で靴だけはちゃんと履き替えて学校から脱走した。「なつかわくんちょお待って!なつかわくん!」叫びながら追いかける先生と面白がって付いてくる同級生たちを振り切ってグラウンドを駆け抜ける二郎を俺は二階の三年生の教室の窓から見ていて、長靴でようそんな速く走れるなあと感心していた。今日は午後から雨が降るからと朝家を出るときにお母さんに無理やり履かされた揃いの長靴は二郎には少し大きい。俺のは青で二郎のは赤。


 結局二郎は通学路を家に向かって泣き喚きながら約二キロ逆走したところで道沿いの家の人に捕まり学校に連れ戻され学校から家に連絡が行き丸雄に怒られなぜか俺もお咎めを受け次の日から毎朝毎夕二郎と登下校する義務を負わされた。「なんで学校なんか行かんとあかんのじゃ、ジロちゃんずっとおうちにいたいんやもん、お父さんとお母さんといっしょにいたいんやもん」うわーん。小学校にあがったら自分のことをジロちゃんと呼ぶのはやめろと丸雄からもお母さんからも俺からもまだ幼稚園児の三郎と四郎からも再三再四言われていたのに泣くとまだ出た。




 ところでその二年後の俺が六年生二郎が四年生になる春以降にも時々二郎は自分のことをジロちゃんと呼んでみせるのだがそれは丸雄を怒らせるためと下の兄弟をからかうためだけに使用され俺の前では絶対口にしないので俺はそれを知らないまま一足先に奈津川の家を出ることになる。




 一緒に登下校すると言っても朝は地区ごとに決められた通学班で学年順に整列して登校するのだから俺は足元ばかり見て歩く二郎の後姿を誰かにぶつかりやしないのかとちらちら見るだけだったし下校時はたとえ授業数が同じでも二郎は俺から逃げるように先にひとりで帰ってしまう。けれど二郎は俺が帰るまで家に入らずに玄関の前で待っている。別々に帰宅していることがばれたら俺が怒られてしまうだろうからというのは建前で玄関で二郎は俺じゃなくて丸雄を待っていた。丸雄が早くに帰宅したとき一番に丸雄に話しかけたいがために二郎は俺を待つふりをして丸雄を待っていた。俺はクラスでの居残りがあったらちゃんとそれに参加してから帰ったしクラスメイトがサッカーをしていたら一緒に遊んで遊び疲れてから帰ったし何も無ければ授業後すぐに帰ったけれど俺が帰宅したときにはいつも二郎は玄関脇にしゃがみこんでいて俺が玄関前の門を開けると同時に立ち上がって家の中に入った。


 学校の校庭の隅にある髷の欠けた二宮金次郎像の足元の池には一年に一度必ず誰かが落ちることになっていてその番が二郎にまわって来たとき俺は四年生で二郎は二年生だった。池には普通の鯉に混じって一匹人面鯉がいるという噂があってそれを面白がるどころか異常に怖がっていた二郎は落ちた途端うわーんと盛大に泣き出してすぐ近くでドッジボールをしていた俺はその声を聞いて池から二郎をひっぱり上げた。その日の帰りはなぜか通学路を家に向かって約二キロのところの学校から脱走したときに捕まったあたりで二郎がしゃがんで俺を待っていたのでそこから家までのあと約一キロだけ朝と着ている服が違う二郎の手をひっぱって歩いた。二郎が落ちた池にはのちに三郎も四郎も落ちたが俺は落ちなかった。
作品名:むかしばなし 作家名:九頭竜川