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この気持ちは本物で純粋なの

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知っている。
 昔は彼が、力のない自分を護ってくれていたこと。





この気持ちは本物で純粋なの





 局中法度書、というものが存在する。
 腕に覚えの荒くれ者を一つの組織としてまとめるための、真選組が真選組たる規則のようなものだ。 
 それが持つ拘束性は極めて薄くあって無きが如しだったそれを、事実上真選組の機動を統べる副長職の彼が、より強制力のあるものに押し上げた。
 それはいい。統制がとれていない集団では、ただの烏合の衆では武装警察としての役割を果たすことが出来ないのだから。
 けれど。
一、 士道にそむくまじきこと。
一、局を脱することを許さず。
一、勝手に金策すべからず
一、勝手に訴訟取り扱うべからず
ここまではいい。
しかしその法度書の五条目の内容を知った沖田は、すぐさま積年の想いを行動に移した。
ぼやぼやしてはいられない。





 あの気持ちを思い出せ。
あの日、誰でもない、自分自身の自尊心に賭けて誓った想いを。 





「なあ、本当にやるのか」
土方が咥えた煙草に慣れた仕草で火をつける。
青々としたススキが疾る風にざらざらと音を紡ぎ出し、容赦ない紅の夕日も真剣勝負の場を視覚的に演出してくれている。
沖田と土方、二人の影しかない、川沿いの土手。
「なぁ総悟」
「なんですかィ土方さん。積年の恨みを果たそうってんだからとっとと抜けよ」
そうは言った沖田も刀を抜くどころかまだ柄にさえ手を掛けていない。
ゆったりと横を向き紫煙を吐く土方を仕草をじっと見ている。
「前から訊こうと思ってたんだけど、お前俺に何の恨みがあんの?」
「そりゃもう筆舌に尽くしがたい、聞くも涙語るも涙な」
表情も変えずに言い綴る沖田を胡散臭げに睨めつけ、土方は煙草を咥えたまま口唇の端を歪めた。
「そりゃ俺に対するお前の暴挙の数々だろうがよ。いきなり後ろから斬り掛かられたり、至近距離からバズーカぶっ放されたり・・・今まで死ななかったのが不思議なくらいだぜ」
「ここで死んでくだせぇ今すぐ」
「だから何で決闘だよ。仇討ちにだって刀合わせる前に名乗り合いみたいのあるだろうが」
「えー、自分沖田総悟と申すもので・・・」
「ちげーよ! 誰の何某の仇とか、何かそんなののこと言ってんの俺は! てめぇの名前なんざてめぇが鼻垂らしてる頃からとっくに知っとるわ!」
額に青筋浮かべて叫ぶ土方を見て、沖田はやっぱりな、と心の中で呟いた。
この人は、何もわかってない。
「俺の全部を知ってる気取りですかィ土方さん」
「あ?」
2人の距離は、およそ八歩ほど。
沖田は一、二歩と間合いをつめた。
「なぁ総悟。俺ホントに斬られる心当たりないんだけど」
土方は動かない。常時開き気味の瞳孔で沖田をじっと見ている。
鴉色の隊服が僅かに風で揺れた。
「心当たりないってのが証拠でさァ」
土方の差料は和泉守兼定。沖田は最近手に入れた菊一文字則宗。
さて、どちらが堅いだろう。
呟いて、土を蹴る音もなく斬り込んだ。
「っ!」
キン、と刃物が鳴る。
瞬身で土方の目の前まできた沖田は、同時に菊一文字ではなく左手で脇差を抜いて振るった。
が、その第一刀は半分ほど抜かれた土方の兼定の刀身で止められる。
相手の懐に飛び込んで斬るのが沖田の常套手段だと土方は読んでいたのだろう。
ずっと一緒だったのだ。それくらい。
「っぶねぇだろうがオイ!」
罵倒と共に落とされる煙草の匂いに、沖田は笑った。
目の前にある三白眼を視線で射抜く。
「グッバイ副長。あの世でマヨネーズでもすすって下せぇ」
言い様、沖田は空いていた右手を閃かせた。
「甘ぇぞクソガキ」
土方は抜きかけの刀はそのまま、逆の手で沖田が腰に差した菊一文字の柄を沖田よりも先に掴んだ。
これによって沖田は自慢の愛刀が抜けなくなるはずだったが。
衝撃が、土方の腹を襲った。
「ぐはっ!」
沖田の右手の拳が、腹に綺麗に決まったのだ。
心底嬉しそうな笑顔の前で、土方は腹を抑えて屈み込んでしまった。
「甘いのはそっちですぜ、土方さん」
歪んだ表情に乱れた黒髪が掛かる。
この男のこのビジュアルは、見た目に騙された馬鹿な女共が目にしたならキャアキャア騒ぎそうだと沖田は思った。
「お、まえなぁ・・・っ」
「俺ももう剣術だけが頼りのガキじゃねぇんですぜ。いつまで夢見てんのそろそろ目ェ覚ませィ」
「・・・お前、後で切腹な」
しゃあしゃあと言い放たれた沖田のセリフに、土方が苦々しく呟いた。
近くの草を手折って口唇に挟んだ沖田は、目の上に手を翳して夕日が落ちていくのを眺める。
「“一、私の闘争を許さず”でしたっけ?」
“右条々相背き候者は切腹申しつくべく候也”。
局中法度の最後はこの文でしめられている。
「でも法度の施行は松平のとっつあんのOKが出てからだって近藤さん言ってましたぜ」
「近藤さん余計なことを・・・」
呟く土方を、沖田は咥えたばかりの草を吐き捨てて振り返った。
「そろそろ日が落ちますぜィ。帰りましょうや」
その表情は何事もなかったかのように平素と変わらない。
「・・・切り替え早ぇなオイ。決闘はもういいのかよ」
「あんたが俺より弱いってことが判れば十分でさァ」
「じゃあお前アレ、仇討ちとか言ってたのアレ一体何なんだよ」
「仇討ちするなんて俺ァ一言も言ってませんぜ」
「でもアレお前積年の恨みって」
「恨みなら現在進行形で積もってまさァ」





たったひとつの瞬間で自分が変わってしまうことはわかっていた。
根本から崩れ落ちてしまいそうな衝撃を、幾度も無責任に投げつけてはそ知らぬフリをして平然としている人。
憎いアンチクショウ。





「俺ァね土方さん」
立ち上がって土埃を払っている男を置いて、沖田は暮れかけた夕日の下歩き出す。
変わらず風が疾り抜けてゆく。
草を薙ぐ音に紛らわせるように、告げた。
「殺したいほど愛してるって意味が、ちっとだけ理解できる気がするんでさァ」
「・・・あ? 何か言ったか?」
思惑通り、本音は風が隠してくれる。
「アンタが土下座して頼むってんなら、アンタを護ってやってもいいですぜ」
風が、全て。





「なぁオイ全然聞こえないんですけど」
「もう耳が遠くなっちまったんですかィこの爺ぃとっとと引退しろコノヤロー」
バシリ、と後ろ頭に軽い衝撃。
「うるせぇ誰が隠居ジジイだ」
もうすっかり立ち直った土方が隣に並んで歩き出す。
もしかして全部聞こえていたのかと一瞬ヒヤリとしたが。
いやこれはおそらく悪口だけがよく耳に届くというアレだ、と沖田はひとり納得し、うっすらと姿を現し始めた藍天に散る星々を見上げた。






○END○





2006/7/31