妬いて
委員会が終わる頃、兵太夫がある紙を持って、仙蔵に見せてきた。
「ほう、新しいからくりか。……ここはどういった造りになっているんだ?」
「ここはですね……」
嬉々として話す兵太夫に対し、仙蔵はどこか誇らしげに話を聞いている。
その様子を横目で見ていた喜八郎は、読んでいた戦の作法の本を閉じて立ち上がった。
「綾部先輩?」
藤内の声に反応を示さず、鋤を握る。そして、どこへ行くとも告げず、部屋の戸を開けた。
「先輩っ、どこに行くんですか!?」
委員会室中の視線を集めたことに気づかず、部屋を出て行く。オロオロとする後輩達に、委員長は一言、気にするなと告げた。
夕飯の時間になり、委員会を解散させたあと、仙蔵は一人で外へ出た。着いたのは、校庭に開いた穴の前。
「喜八郎、委員会は終わったが」
穴の主はひょっこりと顔を出し、仙蔵を見上げた。服も顔も泥だらけになっている。
「これはタコ美ちゃんです」
「……そうか」
「先輩の斜め後ろにはタコ助で、あっちにあるのはタコ吉。そこのタコ江にはスパイクを仕込んでみました」
仙蔵は、足下の後輩をじっと窺った。
掘ったタコ壷にに名前をつけるのは今に始まったことではないので、あまり気にしていなかったが、この日の喜八郎は何かいつもと違う。
「…………」
「…………」
じっとこちらを見上げ、何かを言いたげな表情にようやく気づいた。
「よくそれだけ掘ったな」
仙蔵がしゃがみ、後輩の頭に手を伸ばすと、思い切り避けられた。
「…………喜八郎」
低くなった声音に、喜八郎は物怖じせずに言う。
「本当にそう思うなら、一回くらい落ちてください」
「断る。作法委員なら自分で落とせるように、頑張るんだな」
やれやれとため息をついて、仙蔵は立ち上がった。喜八郎は思わず、あ、と声を上げる。
「夕飯、一緒に食べるか?」
鋤と先輩の顔を見比べて、喜八郎は穴から出た。仙蔵の横に並び、言う。
「ご一緒します」
「じゃあ、まずは手を洗ってこないとな」
そう言って、頭巾の上から頭を撫でる。
喜八郎はほんの少しうつむき、口元を僅かにほころばせた。