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ひととしてあまりに矮小な

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仕事で東京まで出てきて、んでもって帰り道黒子っちとあたかも偶然らしい邂逅を果たす。驚いた顔をつくってやると、俺の教育係だったときみたいにやや深めの溜息をつく。彼には全部わかってしまうから。この人は本当に優しい人だ、とおもう。俺のこんな見え透いた嘘に、知らないふり見ないふりでつきあってくれる。
 二人してなじみのファーストフードに入って、適当なものを頼む。俺が注文すると、え、それだけで足りるんですか?という顔をされたので、今ダイエット中で、と女の子みたいな言い訳をする。実際、火神のように無尽蔵に食べていたのでは、モデル業にさしつかえる。

「黄瀬くん、たくさん頼んだほうが今日はいいような気がします。」

あまりに長い沈黙が続く。会計をすませようとして財布を取り出した俺の手をかれはその、同性にしてはあまりにきゃしゃな手で制す。どうして。黄瀬は首をかしげる。

「今日は君の誕生日でしょう。これくらいさせてください。」

とつげられてあぁ、と感嘆の声を漏らす。本当に男前で困る。
 誕生日の日に仕事をいれるようなこんなおとこのために、おごろうといってくれる、友人は、いつもそういえば俺に優しかった。(きびしくしているようで)
 俺は自分でわかるくらいじぃいんと感じ入ったような顔をしていた。なんとなく、あともうひと押しされたらきっと泣いてしまうだろうって顔でありがとう、という言葉を彼に送った。たくさんの言葉を今日はもらったけれど、やっぱり彼の言葉は俺にとってとても大切であたたかかった。

 席をとって待っている間に、笠松からメールがきて、部活を休む連絡がいってなかったのでは、と少し焦る。だが、本当の内容は黄瀬が考えているよりも何十倍もうれしい言葉であふれていた。今日はお前は早く帰ってしまったから言いそびれたが、とはじまって、照れをかくすような文面で誕生日おめでとうと書いてあった。

「これからも頼りにしてる、か。笠松先輩らしいというか。」

この人はとても生真面目な人だった。先輩としてとても尊敬している人だ。にやにやしているところに黒子っちが現れて、なんですか気持ち悪い、と本当に気持ち悪そうに言われたので一応傷ついたふりをしてみた。さらに気持ち悪そうな顔をされて、俺はほんとうに傷ついたので、その旨を告げると黒子っちの手が俺の頭をぽんぽんとなでていった。なんだこれ超うれしい。

「メール沢山きましたか?」

俺はそうなんすよーと受信BOXを彼に見せてみる。なるほど本当に黒子っちのしらない人の名前もあって彼が知っている名前を探しているのがなんとなくわかったので、緑間っちとか、ももっちとか、からも来たんスよ!と言ってやると、緑間くんが?と少し驚いていた。彼はとんでもないツンデレなのだ。かつてきた、死ねとかかれたメールを思い出してほほえましいような悲しいようなふしぎな気持ちになった。

「じゃあキセキは全員?」

黒子っちは桃っちのメールをみて、少しだけ笑った。桃っちは俺の誕生日を祝うようで黒子っちのことしか書かないから。かわいいなぁ、と思いながら、答える。

「あー、うん、青峰っちだけかな。」

黒子っちは、何かに納得したようにそうなんですか、とつぶやいた。

「どうりで少し、元気がないと思いました。」
「黒子っちに会えたから元気いっぱいもらえたんスけどね。あ、気使わないでくださいッス!だいたい期待もしてなかったんスよ、あのバスケのことしか頭にない人が、俺の誕生日なんか覚えてるハズないってわかってた。」

 青峰は今日は部活にいっているだろうか、とふと思う。俺にメール打つ暇もないくらい練習してたらうれしい。けれど、そんなことはきっとないのだろう。
 みんなからのメールを見て、落ち着いているふりをしているけれど、(本当にうれしいのだけれど)やっぱり俺はあんたに生まれた日を祝ってほしかったな、と思ってしまう。いつも俺を死ぬほどうれしい気持ちにさせるのに、それは本当に無意識の行動だから、俺が欲しいと思うとき、あんたはそこにはいないんだ。俺はそれに勝手に傷ついている。



 店を出たら、もう日はほとんど沈んでいて、俺は黒子っちに今日はありがとうね、と告げる。彼は、次は火神くんもさそってバスケしましょう、といった。本当に淡泊で優しい言葉をくれる人だった。



 駅までは少し歩く。そういえば、青峰っちとはしばらくあってないな、彼のメールは、中学時代いやがらせかと思われて仕方のないものばかりだったけれど、最近ではそれもない。本当に日常が変わってしまったんだと思った。それは大人になったといえば聞こえはいいけれど、俺は、青峰っちと、ばかみたいな話するのが好きだった。

ばかのくせに何真剣に考えてんだ。
携帯がぶるぶるっと震える。今日は本当に着信多い。


「青峰っち。」


ディスプレイの文字に震える。ひどい支配力を持つ名前だ。ほとんど聞こえない声が、自分の声なのに、鼓膜にへばりついて何度も。何度も。


なんて矮小な願い。なんて卑屈な自分、なんて卑怯な人

電話に出るかでないかなんて、きっと、俺に選ぶことなんてできっこなくて、
知ってんだろ、出ろってことなんだろ。あの辛気臭い顔した野郎が、今からうちへ来いなんていったら、なぐってやりたいくらい横暴だな、て文句いいながら、きっと、言うとおりにしてしまう。
いっそ電話をきってしまいたかった。でも、同じくらい、今、彼に忘れてなんかなかった、といってほしかった。自分が、まだ彼の中にいすわり続けていることを確認して、拒まれたって、上等のキスをかましてやるんだ。



なんて、矮小なものの願いだろう。俺はその場でつっぷして泣いてやりたくなった。