センサー
「…どうした?」
先に立って歩いていた上司である田中トムが、静雄の気配が離れたのに気付いてか振り返る。
「や、なんでもないっす」
首を振って歩きだしたが、後ろ髪が引っ張られる感覚がおさまらない。
それどころか、背筋がぞくぞくするような感覚までしてきた。
もしかして、と立ち止った静雄は、トムを呼びとめた。
「すんません。ちょっと…」
「次は俺一人でも大丈夫から、用事あるなら行ってこいよ」
「すんません!」
頭を下げると静雄は勢い良く駆けだした。
ぞくぞくする。
体中がセンサーになったような感覚。
この感覚になった時には必ずやつがこの町にいる。
しばらく走っていると、たまたま覗き込んだ路地の奥に黒づくめの細い姿を見つけた。
「…くくっ」
思わずもれた笑い声とともに、そばにあった標識を引き抜く。
「い〜ざ〜やぁあああああ!!」
走り出しながら叫ぶと、振り返った男の顔が笑みに歪んだ。
「シズちゃん…元気だねぇ」
「うっせえええ!ここにはくんなっつってるだろうがああ!」
振り下ろした標識をひょいとよけられ、頭に血が上る。
壁に当たる感触も無視して斜めに振り上げると、コンクリート片が宙を舞った。
「でもごめんね?シズちゃんと遊んでる暇ないんだ★」
お疲れー、と走っていく臨也の背中を追って静雄は走り出す。
今日も池袋の街で小さな戦争が始まった。