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田舎のおこめ
田舎のおこめ
novelistID. 26644
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失敗ヒーローの妄想

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・・・・・・・・あれ?ここはどこだろう?

なんで、私はベッドに・・・。

なに・・・してたんだっけ・・・・。

なんか・・・すごく痛い・・・。

なに?この格好?

私なんでこんな恥ずかしい格好を・・・。

しかも、人いる・・・・。

いっぱい・・・。

白衣?お医者さん?看護婦さん?

う・・・あああああああああああああ!

痛い痛い!!

あああああああぁぁぁぁあぁぁあああ!!

・・・・はぁはぁ。

そっか。

私今出産の最中だっけ。

昨日の夜、陣痛が来て・・・今何時だろう?

わかんないな。

すごく疲れた。

どれくらいこうしてるんだろう・・・。

『もう少しですよ犬个さん!がんばって!!』

そっか。もうすぐ私母親になるんだ。

腕、一本しかないからなぁ。この子に心配されたりするのかな。

心配されたらちゃんと言わなきゃ。

ママは、一本腕を失ったんじゃなくて、もう一本の腕をパパに守ってもらったんだって。

残った腕を見せて、あなたのパパは私達を守ってくれるヒーローなんだって。

だから、この腕はママの自慢だから、ママは平気だよって。

そう言えば、あの人はどこにいるんだろう。

なんか視界がぼやけるなぁ。

出産って、こんなに体力使うんだ。

ああ、また来た。

この子が出たがってる痛みだ。

ううううううあああああああああああ!!

・・・はぁはぁ。

確かにこの腕は私の自慢だけど、こうゆう時は不便だな。

片腕だけで物に摑まっててもなんか不安定だ。

・・・ん?摑まってる?

なにに?

ん・・・だめだ、ぼやけてよく顔見えないや。

あ、私の爪が喰い込んでる。

血が出ちゃってるよ。

でも、平気そう。

無言で、私に掴ましてくれてる。

顔は見えない。

でも、きっとあの人だ。

私と、今から生まれるこの子のヒーローだ。

いまいち何考えてるかよくわからないけど、私の一番好きな人。

それでいて、私が一番仇なはずの人。

でも、ずっと一緒にいてくれた人。

不安定な私のペットになってくれた人。

そういえば、まだ『ありがとう』って聞いた事ないな。

他の挨拶とかは普通にするのにな。私が家族を殺した後でさえも。

もしかしたら、それが彼なりのケジメかも。

家族を殺され、憎いはずの私へのケジメ。

これから何年一緒にいようと、聞けないかもしれない。

でも、それでいいのかも。

いくら一緒にいたって、子供ができたって、私の罪は消えないんだから。

・・・!!

あああああああああああああああ!!

『もう産まれますよ!!気張って!!』

ううううううううううううううう!!

もう産まれる。

彼との子供が。

うあああああああああああああ!!

・・・・・・・・・・・・・・・・!!

・・・はぁはぁ。

あ・・・泣き声だ。

よかった。ちゃんと泣いてくれた。

『犬个さん!おめでとうございます!元気な女の子ですよ!』

そっか、女の子なんだ。

名前どうしようかな。

私一人じゃ思いつかないな。

彼ならきっと、いい名前を付けてくれる。

『犬个』

あ、彼の声だ。やっぱり彼だったんだ。

そういえば、分娩室入る時からいてくれたんだっけ。痛みで吹っ飛んでた。

『犬个、よく頑張ったね。』

うん。頑張ったよ。

あなたの子供なんだから、頑張らない訳がない。

『犬个さん、抱いてあげてください。』

ああ、この子が彼の子供。

彼と、私の子供。

どうゆう風に育つんだろう。

女の子だから、彼みたいにはなって欲しくはないかな。

よくわかんないし。

あ、彼はそのままでいてほしいけど。

それにしても、疲れたなぁ。

もう・・・起きてられないや。

寝ちゃっても・・・いいかな・・・。

『犬个。ほんとによく頑張ったね。』

うん、ありがとう。君の子供を産ましてくれて。

『疲れたんだね。お疲れ様。この子を産んでくれて、ほんとにうれしいよ。』

『ありがとうございます。剣藤さん。』

あはははは。なんでいまさら名字で呼ぶのかなぁ。

折角ありがとうって初めて言ってくれたのに。

死ぬほど嬉しいのに、これじゃあ後で文句言わなきゃだよ・・・・・・



スパン

直後、彼女の意識は途切れた。

ここは、病院ではなく、もちろんベッドの上でも分娩室でもない。

なにもない、ビルの屋上。

そこには、首から上を喪失した少女の体と、それを抱きしめる少年だけがいた。

少女は少年に願った。

殺してくれと。

少年はそれに応えた。

親の仇として、少女を殺した。

ただ、それは争いの果てではなく、共に生き残る事が出来なかった果ての結末。

剣藤犬个が死の直前に見ていたそれは、あるはずのない未来。

ただの夢かもしれない。

もしくは、パラレルワールドを覗き見たと言う可能性もあるかもしれない。

事実は、誰にも分からない。

ここにあるのは、首のない少女と、それを抱える空っぽの少年だけだから。