二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

花火前夜(前)

INDEX|1ページ/1ページ|

 

机の上に置いてあった携帯が鳴ったのは、22時半を少し過ぎた頃だった。
俺はやっと終わりの見えてきた夏休みの宿題と向き合っている最中で。
テキストを肘で押さえながら左手で携帯を掴んだ。

『着信 若菜結人』

結人からだってことは、個人指定してある着メロでわかっていたけど。
こんな時間に何だろ?そう思って表示された名前を改めて確認してしまった。

「もしもし?」
『もしもし一馬?おれだけど。今大丈夫?』
「大丈夫だけど。何だよこんな時間に」
『何って、おまえ明日誕生日だろ?』
「……そうだけど」

結人の質問に相槌を打ちながら卓上カレンダーをチラ見する。
確かに明日、8月20日は俺の生まれた日。
誕生日なんて男の俺にとっては特に気にするようなモンでもないけれど、こうやって結人や英士が気にしてくれるのは嬉しかったりする。

「そうだけど、明日だぜ」
『知ってるよ。あっでも一応言っとくぜ、一時間半フライングでおめでとー!一馬くん!』
「はは、実感わかねーしソレ」
『なんだよ、素直じゃないヤツぅ』

結人のスネた声を聞いて俺はまた笑ってしまう。
久しぶりでも変わらない。
変わるわけないのはよく分かってるけど、その「当たり前さ」に安心したのも事実で。

それから結人は話題を変えた。
夏休み何してた?と聞かれて「ばあちゃん家に行った」と答えたら、結人が笑いながら「おれも」と言った。

『それくらいしかねえよな~やること』

ほっといたら夜中まで遊び回りそうな結人だけど、時間があるほど意外に面倒くさがる所がある。
学校や練習が忙しい時は一生懸命遊ぼうとするくせに、面倒臭いヤツだ。

「結人、宿題は?」
『やってねーよ、そんなの。聞くなよ。』
「おまえなあ…英士に怒られるぞ」
『夏休み終わったらちゃんとやるよ』
「それじゃあ意味無いだろ…」

この会話は去年もした。
俺は自分の宿題を片付けるのに精一杯だったけど、英士はきちんと自分のぶんを終わらせ、さらに結人の宿題まで面倒見てやっていた。
答えを書けばそれでいいと言う結人にそれじゃダメだと何度も諭して、根気良く健気に説明してやってたっけ。
結人のしかめっ面が可笑しくて、時々見て笑っては怒られた。

今年はまだ、あれから一度も集まっていない。
選抜の、あの試合が終わってから。

『なあ一馬、明日花火やろうぜ』

結人が言った。
何でもないような言い方だったけど、すごく落ち着いた声だった。
結人がこういう話し方をするのは、何かを真剣に考えた時だ。

『夜7時頃迎えに行くからさ。英士と一緒に花火買って、おまえんち行くよ』
「うん」

ドキドキする胸の真ん中で、何だかすごく安心する温かさを感じた。

あの夏を、三人で振り返る。
ずっとしたかった。
でも、どうしていいか分からなかった。
俺たちはやっぱり子供で。
気持ちの整理をつけるのに、時間を掛けることしか出来なくて。
がむしゃらに走って、走って、走りまくって駆け抜けた夏のアツさと、失ってしまったものの大きさ。
それらを、どうやって自分の中へ受け入れたらいいのかわからなくて。
お互いの戸惑いを感じ取ってしまったら余計に踏み込めなくなった。
当たり前みたいに一緒にいたくせに。
集まろう、の一言がずっと言えなかった。
それは、俺も英士も結人もきっと同じで。
だからこそ結人はこんなに真剣に、いま、俺に伝えようとしているんだ。
それが分かって俺も同じように緊張した。
同時にすごくホッとする。
俺が抱えていた気持ちが結人と英士と同じもので良かったと思った。

それから結人はすぐに電話を切った。

『じゃあ、明日な。オヤスミ』
「おう」

俺は、通話ボタンを切って携帯を閉じても、ずっとドキドキしていた。
閉じた携帯を机に置いて窓を開ける。
夏の夜の風は生温くて、冷房で冷えた部屋の空気と喧嘩しそうだった。
空には星が幾つも輝いている。
明日も良い天気になりそうだ。
花火日和になればいい、と思った。
明日は誕生日なのだからそれくらいの願いはきっと叶うだろう。

晴れた星空の下、結人と英士と三人で、花火ができますように。

それが、明日14歳を迎える俺の一番したいことだった。
作品名:花火前夜(前) 作家名:まあめ