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東方~宝涙仙~ 其の壱八(18)

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東方宝涙仙



「お嬢様の最後の命令。しっかりと務めさせて貰います」




ー紅魔館・レミリア&フランドールの部屋ー
 
 フランドール、アイラ、シズマの3人は部屋から出ていってしまった。その光景をレミリアは苦しみながら見ているしかなかった。
「くそ…あいつ…ら……」
 レミリアの感情は憎しみばかりが残っている。今まで真実を言い続けてた妹を信じてやれなかった事、そして、咲夜を殺した犯人が見つかったもののその犯人との圧倒的実力差。
床に爪を立てて悔やみ続けた。
「アイツが…アイツが咲夜を……、咲夜を………」
 どう必死になっても涙を堪えきれないレミリアを見て、美鈴は声をかけることはできなかった。
二人の間で先に声をかけたのはレミリアのほうだった。
「美鈴…。」
「え、あ。はい」
「魔理沙と霊夢が…魔理沙と霊夢が来たら……。事情を美鈴が説明して…」
「わかりました。お嬢様は今からどうするんですか?」
 美鈴の質問にレミリアは涙で潰れた顔を少し笑みに変えて答えた。
「私は………こ………」
 答えきれないままレミリアは目を閉じてしまった。フランドール戦で蓄積されたダメージに加え、アイラにやられたダメージ。何よりも精神的ダメージと負担で力尽きたのだろう。
『無念』の一言が染み出すその表情で、レミリアはそっと力が抜けていった。
「お、お嬢様!?」
 独りきりの世界に投げ込まれた美鈴はレミリアに大声を上げて呼びかけた。
「お嬢様!!レミリアお嬢様!!」
「…。」
「お嬢ぁぁ!!お嬢様ぁぁぁぁぁ!!」
 何度も何度も呼びかけたが、レミリアが返事をする事はなかった。
「咲夜さんも亡くなって…妹様も出ていってしまって…お嬢様もいなくなってしまったら…、私とパチュリー様はどうすればいいんですか…」
 人形のように身動きをしないレミリアに語りかける。
咲夜が殺されたと聞いた時も、最後の最後まで死んでいる咲夜に話しかけていたのはレミリアでなく美鈴だった。仲間を思う意思が強い美鈴にとって咲夜の時も今回も、とてつもなく辛い事だろう。
妖怪であるが為に、長寿であるが為に巡り合う悲しみ。「これも運命なのよ」と教えてきた主"レミリア・スカーレット"が動かずに目の前で倒れているという現実。
 美鈴はレミリアの教え通り運命を認め、勇敢に立ち上がった。
「お嬢様、お嬢様の最後の命令。しっかりと務めさせて貰います」
 閉ざされたままのレミリアの瞳を見つめる。
レミリアを離れ、ドアを開けた。廊下の微かな光がレミリアを照らす。
「ありがとうございました。行ってきます」
 そう言い美鈴は廊下へ出るなり走り出した。




ー紅魔館・東側廊下ー

 フランドール、アイラ、シズマ達は部屋を出て東側廊下を歩いている。アイラを挟むように3人が並ぶ。
レミリアに裏切られた気でいるものの、横にいるのは咲夜を殺した犯人"アイラ・ダーブレイル"。仲間として加わって気持ちのいいものではなかった。
「ねぇ」
「何?フランちゃん」
「フラン達は今からどこへ行くの?」
 心に思った疑問をシズマに聞いてみた。フランドールの不安そうな問いかけにシズマは優しく返すようににっこりと笑う。
「フランちゃんは紅魔館嫌い?」
「え?」
 シズマの言葉はフランドールの問いかけとは関係がなかった。
フランドールはこの時点で少し先を察した。紅魔館の爆発に続き、自分を味方に加えた事、さらに今の言葉。
 おそらく紅魔館を完全に潰す気でいるのだろうと考えた。
紅魔館内最強といえば悪魔の妹"フランドール・スカーレット"。アイラさえいれば紅魔館メンバーを全滅させる事も可能だろう。しかし、もしも地下牢でフランドールが狂気を溜めこみExtraランクという実力を越えた場合どうなるだろうか。
アイラとためを張れる。そこにパチュリー・ノーレッジ、レミリア・スカーレットといった高ランクの者がフランドール側についてしまってはアイラであろうとも太刀打ちはできない。
そこでシズマの考えではフランドールを味方につけ、レミリアを戦闘不能にしたうえで紅魔館を潰すという計画が立てられていたのではないか。
 フランドールは我に返ったようにシズマの味方に付いた事を後悔しだした。
「フランちゃん?」
「!…あ、うん。そんな…好きじゃない…」
 嘘だ。フランドールはあまりのプレッシャーに押し負け、大好きな紅魔館とそのメンバーを嫌いと言ってしまった。
ここまで言ってしまうともはや後には戻れない。今更「やっぱお姉さまの味方!」なんて言い張れない。おとなしくシズマとアイラに着いて行くしかないのだ。
「じゃあ紅魔館、壊しちゃおうか」
「!?」
 今まで下を向いていたフランドールは青ざめてシズマの顔を見た。
「壊しちゃうの?」
「フランちゃんは嫌な思い出を残したお家に住みたいの?」
「そういうわけじゃ…」
 口ごもるフランドール。
「いらないものは全部壊してスッキリしてしまえばいいんだー」
「そんな…でもフランは…!」
「紅魔館、嫌いなんでしょ?」
 アイラが精神的にさらに追い込みをかける。アイラの性格は、昔の一番狂いに狂っていたフランドールの性格に似ている。
アイラも常に発狂しているわけではないが、どこか理性の抜けたような感じだ。そのせいか、いらないものは壊し、いるものは自分の側から決して離さない。そんな単調な性格なのだ。
そもそも今回シズマとアイラがなぜ紅魔館に攻め込んだのかは不明であるが…。

「ぬむー、フランちゃん、どうなのかな?壊していいのかな?」
「……」
 完全に追い込まれたフランドールは小さく、本当に微妙なほどにコクリとうなずいてしまった。
「フヒヒヒヒ…ヒヒヒヒヒヒ…ヒハハハハハハハ!!!」
 痛々しい大笑いを廊下に轟かせ、フランドールの左手を握ってアイラは機嫌よくスキップをした。
「い…痛いよアイラちゃん。そんな強く握らないで」
 力の制御がわからないアイラに振り回されて、欝な気持ちの少女は廊下を行く。


  ▼其の壱九に続く