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相対する瞳

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「そろそろ出てこないか」
その声はしずかに部屋に響いた。こうして追いかけっこをはじめてもう3時間になる。息をころして隠れているのは僕の職業病とも言えたから、べつにこの状況自体は苦痛でもなんでもなかったが、苦痛なのはこの追いかけっこの相手、言峰綺礼だった。まず、僕は何故こうして彼と相対さなければならないのかわからない。彼が何故か僕に執着しているらしいことはしっていた。しかしここまで執拗に追いかけられる意味がわからない。必要性がない。しかも先程から彼は「サーヴァントは連れてきていない」と言う。なおさらわけがわからない。サーヴァントを連れず、個人的に、聖杯とも関係なく僕を追いかけまわす理由が、何処にあると言うのだ。気色が悪い、としか言いようがない。故に、僕は逃げていた。個人的な理由で追いかけまわされるなら、個人的な理由で逃げまわったっていいだろう。彼の要求に応じて出て行く必要性も感じない。というかないだろう。しかし、にしても、3時間。長い。どれだけ大事な用事なんだ、とためいきを吐く。いや、いけない。かなり精神的にキているといっても、何を考えているかわからない未知の敵を前にためいきなんか吐いては。ああ、ほら。言わんこっちゃない。言峰が僕のいるほうに当たりをつけて、かつん、かつん、と歩いてくる音がする。3時間という時間は僕の逃げ場をすこしずつ、だが確実に奪っていた。うしろに扉、斜め前方に階段があるが、あの階段の下は先程走り回った場所だ。もう逃げ場としては使い物にならない。かといって上に上にと上ったところで、あるのは屋上、そんなところからダイブしても無事である確証は何一つない。なにしろこちらは何も用意していなかったのだ。そう、最低限の武器と防御以外は、何も。アポイントメントなしはダメだろ、と心中でつぶやいてみるが、それは自分が言えたものではなかったな、と苦笑する。ここで選べるのはもうただひとつ。このうしろの扉の向こうですこしばかり時間稼ぎをすること、そして彼と顔を合わせることだ。最後まで生きることだけを考える。扉の向こうに入ったらまず隙を見て逃げられる場所かどうかの確認を。ただ、このビルの大体の作りは頭に入っていた。突き当りのこの部屋はきっと大きな窓がひとつきり、そこから逃げる以外の算段は組めない。言峰は隙を見せてくれるだろうか。僕を生かして帰すつもりか。僕は、逃げ切れるのか。

扉を開けて、すばやく閉めた。気配に気づいた言峰がかつかつかつかつと鋭い足音を響かせてこちらへ向かってくるのがわかる。ここに辿りつくまでにおそらく早くて2分。さあどうする。部屋内部を確認する。思ったとおり、大きな窓と大きなベッド、小さな机がある以外何もない。言峰の来訪の意図にもよるが、言峰がこの扉を開けた隙にそこから出ようとするならまず手傷なしには抜けられないだろう。かといってこの窓を蹴破って落ちたとしても無傷ではいられない。二度目のためいきを吐く。言峰の足音はもうすぐそこまで近づいていた。扉に手のかかる音がする。そこからは速かった。次の瞬間僕は首先に言峰の短剣を突きつけられていて、同時に僕は言峰の眉間にピストルの銃口を合わせていた。間近で視線が交錯する。言峰の瞳は曇って、何を考えているのだかさっぱり読めなかった。
「何が望みだ」
僕は短く聞く。正直長々とこの男と話をする気になどなれなかった。
「まあそう邪険にするな。銃を下ろせ」
「そういうセリフはその危ない武器を下ろしてから言ってくれないかな」
そういうと言峰は素直に短剣を下ろした。僕は後ずさりしながらピストルを少しずつ下げる。互いの距離は1メートルほどになった。
「衛宮切嗣。先に告げたとおり、私は今日は貴様と殺し合いに来たんじゃない」
「じゃ、なんだって言うんだ。そんな物騒なモンぶらさげて言うセリフじゃないよそれ」
「だって手ぶらで来たってどうせ疑って会ってくれないじゃないか」
「だってとか言うな気色悪い。というか君と会話が成り立ってるこの状況が気色悪い」
「ひどいな、衛宮切嗣」
「さっきから僕の名前を連呼するな。やめろ」
「だってなんだかゴロがいいだろう。衛宮切嗣って」
「だからやめろって言ってるだろ」
「本題に入ろう衛宮切嗣」
「人の話を聞かないのか君は」
「今日私がここに単身乗り込んできたのは他でもない。私のことを衛宮切嗣、貴様にしって欲しいがためだ」
「…はあ?」
「貴様に私をしってもらうということはすなわち、私自身が私をしるということに繋がる…そう、それは自身の探求であり愉悦、の、探求でもある…とギルガメッシュも言っていた」
「はい?」
「だから今日は衛宮切嗣、貴様に私のことをがっつりねっちょりしってもらおうとおもう」
「えっ…いや……僕は君なんかのことには全然興味もないし、しりたくもないんだけど…」
「しってもらおうとおもう」
「言峰…僕は君のことをなにひとつしりたいとは思っちゃいないし、今後もしりたくなることはない。自身の探求…とか言ってたけど、それは僕とは関係のないところでやってくれ。君のことなんて正直まったくしりたくもないよ」
「私は貴様でないと駄目だ」
「…君、文脈とかそういうのわかってるのかな…そういうセリフはもっとちがうひとに言ってやりなよ。僕は君にそういうセリフを吐かれると本気で吐き気をもよおすよ…」
「しらないな」
言葉通り、言峰は僕の言葉など聞いている暇はないとばかりにずいとこちらへ一歩足を踏み出した。すぐさまピストルを構えようとしたがその腕をとられる。バランスを崩した体を支えようと腰に力を入れると足を払われた。そのままひどい音を立てて僕は床に崩れ落ちた。こんな失態はいつぶりだ。もしかしてはじめてなんじゃないか。そんなことをおもいながら掴まれた右腕から言峰を見上げると、男はやはり何を考えているのだかわからぬ茫洋とした瞳でこちらを見下ろしていた。男の左手が伸びて僕の髪を掴む。完全に奴の優勢だ。窓のほうに一瞬視線を走らせる。言峰は僕をベッドに押しつけるようにして僕の手からピストルを毟り取った。カラン、と虚しい音が部屋に響く。ピストルを払った手は、僕の手をひどくやさしく押し包むように一度握って、髪を掴んでいた手は僕の纏った衣服の中へと滑り込んできた。あ、と男のしようとしていること、その意図に気づいて、僕は一瞬混乱の只中に引き摺り出されるような感覚を憶える。しかしなによりこわいのは、彼が僕にしようとしていることより、彼が何故、そうしようとするのか、というのが僕には見当もつかない、というその一点だった。男はただしずかに、自身の欲望のまま、僕を暴こうとしていた。こういう経験もはじめてだな、とさっきより近いその眼を見ながらおもう。その瞳は何も考えていないというよりは、純粋ゆえに何もわかっていない、そんなふうにも思えた。僕は本当はこの男をしっているんじゃないか。彼が僕でないと駄目なんだと言ったのはそういう意味なんじゃないか。彼すらしらない何かを、僕は。
僕を暴く彼は、衛宮切嗣、衛宮切嗣、と僕の名をただひたすら、それしかしるもののないようにつぶやき続けていた。彼にとって僕はなんなんだ。そして、僕にとって彼は。


「言峰、」
作品名:相対する瞳 作家名:坂下から