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祝福された者たち

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――冬特有の澄んだ空気。高く青く晴れ渡った空。
最後に吊られたのは何処からかやってきた旅人ニコラスだった。
恐怖に怯え、意見がぶれてしまった罪の無い村人達が怪しまれ処刑されていく中で最後の最後まで彼は怪しまれずにいた。
大きなリンデングリーンの帽子を目深に被り表情が見えにくいのも功を奏したのだろう。占い師であり、まるで恐怖を感じていないかのように常に冷静な表情を崩さず理路整然と人狼を退治するための方策を語る姿は皆の信頼を一身に集めていた。
今にして思えば冷静な表情や態度は恐怖を全く感じていないどころか、人狼であることがばれてしまうんではないかと言う恐怖を抑えつけていたのだと理解出来る。
そんな彼がひょんな事から人狼であることがばれてしまい、急遽その日の処刑台に登ることとなってしまった。
そして彼はどうやら三人居た人狼の最後の一人だったようだ。ようだ、と言うのは、本当の最後の一人が行方知れずになってしまったから。
彼が処刑台に上がる直前「…頼む、来てくれ」と呟いたのを聞いた私は、思わず「誰の事ですか?」と聞きそうになったが、常に冷静な彼が発した焦燥感を滲ませた言葉と祈るような表情を見ていたらそんな気も薄れてしまい、その横顔を見つめ祈りのことばをつぶやくだけに留めておいた。
そう言う訳で三人目の人狼は結局誰の事だったか分からず仕舞いとなってしまったが、ニコラス自身が最後まで仲間を庇っていたのでどちらにしても分からなかったのかもしれない。
ニコラスが処刑された瞬間、村の周りに立ち込めていた霧が晴れ、青空が広がり人狼が居なくなった事を悟った。ニコラスが必死に庇っていた最後の仲間も何処かで静かに死んでいったのだと思う。そうで無ければ人狼騒動が始まった時に村を覆った晴れない霧が晴れる筈が無い。根拠は無いのだが本能的に私はそう感じ、また村人たちも同様に感じたのだろう。霧が晴れ青空が広がった瞬間に村人たちは安堵と歓喜が綯交ぜになったような声をあげ、それは高く青い空に吸い込まれていった。
霧の晴れた空をそっと見上げ、日差しの眩しさに目を細めていると後ろから声を掛けられた。
「お疲れさま」
赤いフードに金髪を煌めかせて微笑んだのは共有者のカタリナだ。
相方のヨアヒムと共に村の皆の取り纏めを行ってくれた彼女は少し疲れた顔をしていた。
混乱していた村を的確な指示で収めていく様はまさに迷える子羊を導く羊飼いといったところだろうか。
「カタリナさんもお疲れさま、めえ君もね」
そう、カタリナには相方のヨアヒムの他にもう一人、いや、もう一匹か?支えてくれた者……羊が居たのだ。
人狼騒動の間、姫を守る騎士よろしく片時も離れなかったこの羊。今もカタリナを何かから守るように白いふわふわとした体を彼女の横にぴったりとくっつけている。
それを見た私はもう一人の姫を守る騎士を思い出していた。
村のパン屋、オットーだ。
「遅くなってすまない。もう占い師を名乗る奴らが出てるのかい?そいつらは偽物だ。おれっちがモノホンの占い師さ!」
村の集会所に勢いよく入って来た彼はその勢いのまま人狼と人間を占える占い師として名乗りを上げるが、彼が名乗りを上げた時点で自称占い師は三人目となり、誰が本物なのかは神ならぬ人狼のみぞ知ると言った様相を呈していた。
そしてその時、幼馴染であるオットーが占い師として表に出た事に背中を押されたのだろう、村の若い娘パメラが死者の魂を判別できる霊能者として名乗りを上げたのだ。
占い師が乱立したのに引き替え、彼女はこの村ただ一人の霊能者として最後まで表舞台に立つこととなった。
唯一信頼できる能力者だと言うことで、村の意見をまとめるまとめ役をも担いながら処刑後の人間が人狼か人間かを判別する……大人しく気弱な彼女にはバラバラな皆の意見を聞き、まとめ、決断、そしてその結果を自分で皆に公表していく任務はかなりキツかったのかもしれない。
複数の占い師が居る中で一人を頼りにするのは良くないと分かっていながらも幼馴染であるオットーを慕い縋るような発言、仕草をしてしまっていた。
オットー自身も敵同士と分かりつつそれを撥ねつけることが出来なかったのだろう、たびたび彼女を励まし支えていた。
例えるならばそう、か弱き姫を守る忠実な騎士のように。
そしてオットーの視点で人狼二人目を発見した日、複数出ていた占い師達の中に人狼が居ることが濃厚となった為に唯一占いで人狼を発見したオットーが処刑されることになってしまった。
後で分かったことだが彼は人狼に心を惑わされた狂人で、偽の占い師だったのだ。人狼を発見したというのも嘘をついていたんだと告白していた。
「…パメラお嬢、お別れです。おれっちはあなたを…いえ、…生きてください。お幸せに。」
処刑される寸前に人狼の勝利を願わず、幼馴染の幸せを願い処刑台に登ったオットー。
その時の彼には人狼に惑わされている狂気と言える物は全く無く、その視線はただただ彼女への情愛に溢れていたのを憶えている。
ふとパメラの方を見やると彼女は幼馴染が処刑される様子をじっと目を逸らさずに見ていた。彼が処刑される瞬間に大粒の涙を流しはしたが、それ以降人狼を退治するまでは涙を流すようなことは無かったように思える。周りを心配させまいと気丈にふるまっていたのかもしれない。
「幸せにって…オトくん居ないのに…何で幸せになれると思うの?」
幼馴染としてこの村で共に育ち、言葉には出さないけどお互いを想い合う仲となっていたのだろう。オットーが処刑された翌日に彼が人間だと宣言した後、ポツリと呟いたのを聞き、彼女の気丈な振る舞いと人生はかくも残酷なものかということを思い知らされた。
しかし……何者の仕業かは分からぬがなんとも粋な計らいが待っていたのだ!
作品名:祝福された者たち 作家名:tesla_quet