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二人と一匹の事情①

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獄寺隼人は並森中の廊下を急いでいた。
その手には、普段彼があまり飲む事のない紙パックの牛乳と一枚のタオルが握られている。

「弱ってなきゃいいが、」

やがて、彼は校舎の裏手に回り、その足を止める。

「・・・いない。」

そこには、空っぽになったダンボールだけが一つだけ置いてあった。

「・・・。」

先程までは、小さな三毛猫が1匹だけ入っていたのだが今は居ない。
おそらく、自分の他にも、子猫の存在に気付いた心優しい生徒が持っていったのだろうと隼人は一人合点し、踵を返そうとした、その時だった。
なにやら、少し遠くで3人の不良らしき男子生徒がなにやら騒がしくしている。
別にどうって事ない光景――そう、そのうちの一人が小さな三毛猫の頸を掴んでさえ居なければ・・・
その、様子に引っ掛かりを覚え、隼人が3人に近付こうとした正にその時だった。向こう側の校舎の影から、見覚えのある一人の男子生徒が姿を現した。

「雲雀、」

隼人がそう呟くのと、男子生徒――雲雀が3人の不良に声をかけるのはほぼ同時だった。

「ねぇ、何群れてるの?咬み殺すよ。」
「ひっ!」
「風紀、委員」

3人の内2人が怯えたように後退する、が、残りの一人は特に気にした様子もなく2人とは逆の行動を取る。

「これは、これは風紀委員長。いやぁ、ついさっきこんなのを拾いましてね?」

と、少し媚を売るようなねと付いた声で話しかけながらその右手にぶら下げた子猫を雲雀に見せ付ける。

「なるほどね、オスの三毛猫か。」
「おやぁ?ご存知でしたか。」

そうか、どうして不良なんかが子猫を拾ったのか隼人は理解した。
オスの三毛猫・・・それは存在自体が貴重で、相場が限りなく高価な事は猫愛好家たちの常識だ。つまり、あの3人はあの三毛猫で稼ごうとしていたのか。
理解したとたん、押さえようのない怒りが、腹の底から湧き上がってくる。
あんなに小さくて、無垢な生き物を・・・・

「下種が」
「がはっ!?」

隼人が駆け出した次の瞬間、雲雀が一寸の躊躇も無しにその不良の頭をトンファーで殴打した。当然不良は倒れ、子猫が宙に放り出される。

ずしゃぁ

「ワオ、素晴らしいキャッチだね。」
「・・・。」

子猫の落下するあたりまで一目散に走り、スライディングするようにその小さな体を隼人の両手が受け止めた。

「なっ!?」
「っ!?」

突然の隼人の出現に怯えていた不良二人が驚きを顕にする。
が、雲雀は暢気に彼を褒める(?)と、前へ――不良2人へ近付き、横薙ぎにトンファーを振るって一撃で黙らせと、再びこちらを向く。

「さて、君はどうしようかな?」

普段から、服装や喫煙についての風紀違反を理由に雲雀に咬み殺される事の多い隼人は警戒しながらも相手から目を離さないままの状態で、両手で捕らえたままの子猫を放すまいと抱きしめる。

「・・・。」
「・・・。」

が、いつまで経っても相手が攻撃してくる気配は一向にない。それでも、緊張を解くことなくその状態を続けていると雲雀がこちらにゆっくりと歩み寄って来るではないか。

「それ、どうするつもり?」

あと2歩ほどの距離で彼は止まって、問いかけてきた。

「はぁ?」

意表を突く展開に思わず隼人が声を上げれば、もう一度訊かれる。

「だから、その子猫をどうするつもり?」
「そりゃ、飼うに決まってるだろ」

その為に、家からタオルと牛乳を持ってここまで走って来たのだから。と、言葉にする代わりに子猫を受け止める際に地面に落としてしまったそれらを顎で示す。雲雀もそちらを向き、理解して

「そう、」

と、呟くように言う。

「責任持って育てなよ。」
「は?」
「その猫。じゃあ、僕は応接室に戻るから。」

隼人が呆然とするのも構わず、そう言い残して雲雀は元来た方向へ歩き出す。

「もしかして、あいつもこいつが心配で戻ってきたのか?・・・まさかな、そんな訳ねーか。」


作品名:二人と一匹の事情① 作家名:でいじぃ