二人と一匹の事情②
雲雀が、ふと尋ねる。
静かな応接室には革張りのソファに寛ぐ雲雀と一匹子猫の姿があるだけ。勿論、答えを本気で尋ねたわけじゃない。が、それに答えるかのように子猫は緩慢な動作でこてん、と腹を仰向けた。
「・・・なるほど。」
懐かれちゃったわけか。そう納得して、雲雀はその猫特有の柔らかな体を優しく撫でてやる。子猫も、気持ちが良いのか目を細めて甘い声で鳴く。
しばらく、そうしていたのだが子猫はいつしか睡ってしまい暇だと思いつつドアの方に人の気配を察して身を起こす。
「やあ、入ってきなよ。」
そろそろ、来るころだと思っていたから動揺なんかしない。
がちゃ、
ドアが開き、思っていた通りの人物が姿を現す。
「よお、」
だが、以前まで服装違反などの常習犯だったその少年は今や見る限り大人しくなったみたいできちんと制服を着こなしている。どうやら、いましがた戯れていた子猫が頻繁にここに出入りするため仕方なくそうしているらしい。
「・・・、寝てんのか?」
「うん。」
「そうか。」
「運びやすくて良いんじゃない?君、嫌われてるみたいだし。」
少しだけ、雲雀が意地の悪そうな笑みを浮かべて言えば
「うっせ、いーんだよ。」
と、少年―獄寺隼人がいじけた様にぼやく。
そんな光景が最近は、もはや日常になっていた。
以前ならばこんな状況は絶対ありえなかったはずだが、雲雀の傍らに丸まっている子猫をひょんなことから保護してからは、二人の知人以上友人未満の不思議な関係は続いていた。別に、相手を特別好きなわけでもないし共通する話題が多いわけでもない。ましてや、メリットなんかない。
なのに、気が付けばこうして獄寺が近くに居る時間を気に入ってる自分が居た。その事実に気付いた初めの頃こそ驚きもしたが、今では、なんとなくこの和菓子の甘さのように微かな安らぎを雲雀は享受していた。理由なんてどうでも良くなったのだ。原因が何だったとしても、それは恐らく、この関係を手放す理由にすらならないだろうから。
「座るかい?」
子猫が丸まっている反対側を軽く叩けば、あまり間を空けずに
「あぁ、」
と、短く返事が返ってくる。
そして、控えめな音がしてから雲雀の右側の人の気温が微かに上る。
こうして彼と隣り合うように座ると不思議なことに、気分が落ち着いていく。
「君って、何か超能力でもあるの?」
少しだけ気になったので雲雀は、そう問いかけてみた。
「はぁ!?」
予想外に、大きな反応。
獄寺は大きな声と共に肩を跳ねさせた。そして、突然の大声によって目覚めた子猫がソファを転がるように着地して部屋の片隅に身を隠してしまった。
「あ、起きちゃったじゃない。」
「・・・。」