黒と白の狭間でみつけたもの (1)
( 第1章 旅立ちの朝 )
イッシュ地方、カノコタウン。
自然に囲まれた小さな田舎町が、今日は朝から少しだけさわがしかった。
ちょうど町の真ん中に位置する一軒家に、大きなプレゼントが、いましがた届いたからだ。
アララギ博士からのプレゼント。
「はい、おまちどおさま!」
にっこり微笑みながら、お母さんが階段を上がって部屋に入ってきた。
腕に抱えているのは、大きな箱。
大きなブルーの箱に、緑のリボンがつけられていた。
机に置かれると、大きな箱は小さくカタカタと物音を立てた。
「うわぁー! すごい、ほんとにポケモンもらえるんだ!」
素敵なプレゼントを前にして、トウコは目を輝かせた。
「わかってるとは思うけど、開けるのはチェレンやベルが来てからよ!」
すぐにでも、プレゼントに手を伸ばしてしまいそうに見えたのか、お母さんはそう言って念を押してから階段を降りていった。
「もう、わかってるわよ! 3人で一緒に選ぶって決めてるんだから」
そう言って、プレゼントを見ながら嬉しそうにはしゃぐ、トウコ。
今日から本当にポケモンを手にして、トレーナーになれるなんて、夢みたいだった。
世間じゃ10歳でポケモントレーナーになる子だって、いっぱいいるのに、私のお母さんも、ベルのパパも、どんなに言ったってずっと猛反対だったのに。
それが急に、「そろそろトレーナーになってもいいかもね」なんて言い始めたのは、先月の誕生日の時だった。
それから3人が旅立つことが決まって、今日の日取りまで決まるまでは、あっという間のことで、いったいなんで急に心変わりしたのかわからなかった。
それでも、やっとトレーナーになることを許してもらえたのは嬉しかった。
ちょっと遅れちゃったけれど、やっとポケモントレーナーの仲間入りだ。
「もう、早く来ないかなぁ! 待ちくたびれちゃうよ」
「もう来てるけど……」
突然、チェレンの声がして、トウコは飛び上がりそうになった。
振り返ると、チェレンがあきれ顔で立っていた。
「うわ、チェレン!?いつからそこに?」
「おはようトウコ。さっき、チャイムを押して来たじゃないか。君がにやにやしてて気づかなかっただけだよ」
一人で喜んでいた様子を見られていたかと思うと、トウコは恥ずかしくて仕方がなかった。
確かに、にやにやしちゃってたと思うけど、わざわざ言わなくてもいいのに!
「それで、それが、アララギ博士からのポケモン?」
「そうよ、この中に私たちのポケモンがいるんだって!」
「ふーん」
いつも冷静を装っているチェレンが、珍しくそわそわしながら青い箱を何度も見る。
「なんだ、チェレンも楽しみなんじゃない」
「いいじゃないか! 僕だってトレーナーになるのは夢だったんだから」
むきになったチェレンが赤くなったのがおかしくて、トウコはクスリと笑った。
それにしても、もう1人が来ない。
時計を見ると、やっぱり約束の時間は過ぎていた。
「ねぇ、ベルは、まだかな?」
早くポケモンを見たいけれど……。
幼なじみのベルはいつもマイペース。
きっと今日も遅れてやってくるとは思っていたけれど。
「ベルは、またか……」
チェレンがため息をついたとき、インターフォンのチャイムが鳴った。
「あ、来たみたい」
ドタドタと階段を急いで駆け上がる足音がして、ベルは息を切らして部屋に入ってきた。
「あのう、ごめんね。また遅くなっちゃった……」
「全く……、君がマイペースなのは10年も前から知ってるけれど、今日はアララギ博士からポケモンがもらえる大事な日だっていうのに」
チェレンが説教混じりに言う。
「はーい、ごめんなさい。トウコ、チェレン」
「もう、ベルってば! ほら、早く開けようよ」
「うん! で、ポケモンはどこ?」
「この青い箱の中だよ、いくよ」
トウコは緑のリボンを勢いよく引っぱった。
シュルシュルと結び目がほどけて、リボンが床に落ちる。
綺麗な青いボックスをベルとチェレンが開けると、3つのモンスターボールが姿を現した。
光沢のある赤い布の上にのった、3つのボールとメッセージカード。
メッセージはアララギ博士からだった。
【この手紙と一緒に3匹のポケモンを届けます。3人で仲良く選んでね】と書かれている。
ボールの中からは、3匹のポケモンが3人を見つめていた。
「これが、私たちのポケモン」
「すごーい!かわいい」
「……で、誰から選ぼうか?」
チェレンの言葉に3人は黙った。
そうだ、選ばなきゃ。
でも、誰から選べばいいのだろう。
こんなことで喧嘩しても仕方がないし……。
トウコが2人の様子をうかがっていると、ベルが言った。
「そうだ! トウコの家に届いたんだし、はじめに選のはやっぱりトウコが良いよ」
「え、いいの?」
「そうだね。ベルの意見に賛成だ。トウコ、君が選ぶべきだ」
じゃんけんにでもしようかと思っていただけに、2人に譲られて、なんだか恥ずかしいような、照れくさいような気持ちになった。
「ほら、はやく」
「うん」
2人にせかされて、トウコは3つのボールをのぞきこんだ。
緑と赤と青のポケモン。
実は、はじめてみた時にすでに目があっているポケモンがいた。
トウコは迷わず1つのボールを選んだ。
「私、この子がいいな」
緑のポケモン、ツタージャ。
3匹の中でも、トウコのことをじぃっと見つめてきたポケモン。
草ポケモンだよね、葉っぱみたいな緑のしっぽがかわいい。
「じゃあ、あたしはこのポケモンにする!はじめから、この子がいいと思ってたの!チェレンはこの子ね!」
ベルが手に取ったのは、水のポケモン、ミジュマルだ。
ぬいぐるみみたいなポケモンだ。
ベルが好きそうだとは思った。
「全く、どうして君が勝手に僕のポケモンを決めちゃうのさ……?まぁ最初からポカブが欲しかったけど」
チェレンのポケモンは炎のポケモン、ポカブだ。
そう言いながら、嬉しそう。
そういえば、はじめにもらうなら炎ポケモンがいいって言ってたっけ?
みんなそれぞれ自分が欲しかったポケモンに出会えたようだった。
不思議とはじめから、誰から選んだってこのポケモンだって決まっていたような気がする。
モンスターボールからのぞく、ツタージャの顔を見ていると、早く目の前でみて、触ってみたい気持ちがトウコの中で溢れてきた。
「ねぇねぇ!早くボールから出してみない?」
トウコがそわそわしながら言ったときには、2人もそのつもりみたいだった。
「そうだな。よーし!」
「じゃあ一緒にね!せーの!」
ベルのかけ声と共に、3つのボールが投げられた。
床に当たったモンスターボールが白い煙を上げて、ツタージャ、ミジュマル、ポカブが飛び出してきた。
みんな小さくてかわいい!
ツタージャはボールから出るなり、トウコにてくてくと駆け寄ってきた。
「タジャ!」
これから一緒に旅をするパートナー。
笑ってくれてるのがうれしくて、トウコはツタージャを抱きしめた。
やわらかい、緑のにおいがした。
「よろしくね!ツタージャ!」
イッシュ地方、カノコタウン。
自然に囲まれた小さな田舎町が、今日は朝から少しだけさわがしかった。
ちょうど町の真ん中に位置する一軒家に、大きなプレゼントが、いましがた届いたからだ。
アララギ博士からのプレゼント。
「はい、おまちどおさま!」
にっこり微笑みながら、お母さんが階段を上がって部屋に入ってきた。
腕に抱えているのは、大きな箱。
大きなブルーの箱に、緑のリボンがつけられていた。
机に置かれると、大きな箱は小さくカタカタと物音を立てた。
「うわぁー! すごい、ほんとにポケモンもらえるんだ!」
素敵なプレゼントを前にして、トウコは目を輝かせた。
「わかってるとは思うけど、開けるのはチェレンやベルが来てからよ!」
すぐにでも、プレゼントに手を伸ばしてしまいそうに見えたのか、お母さんはそう言って念を押してから階段を降りていった。
「もう、わかってるわよ! 3人で一緒に選ぶって決めてるんだから」
そう言って、プレゼントを見ながら嬉しそうにはしゃぐ、トウコ。
今日から本当にポケモンを手にして、トレーナーになれるなんて、夢みたいだった。
世間じゃ10歳でポケモントレーナーになる子だって、いっぱいいるのに、私のお母さんも、ベルのパパも、どんなに言ったってずっと猛反対だったのに。
それが急に、「そろそろトレーナーになってもいいかもね」なんて言い始めたのは、先月の誕生日の時だった。
それから3人が旅立つことが決まって、今日の日取りまで決まるまでは、あっという間のことで、いったいなんで急に心変わりしたのかわからなかった。
それでも、やっとトレーナーになることを許してもらえたのは嬉しかった。
ちょっと遅れちゃったけれど、やっとポケモントレーナーの仲間入りだ。
「もう、早く来ないかなぁ! 待ちくたびれちゃうよ」
「もう来てるけど……」
突然、チェレンの声がして、トウコは飛び上がりそうになった。
振り返ると、チェレンがあきれ顔で立っていた。
「うわ、チェレン!?いつからそこに?」
「おはようトウコ。さっき、チャイムを押して来たじゃないか。君がにやにやしてて気づかなかっただけだよ」
一人で喜んでいた様子を見られていたかと思うと、トウコは恥ずかしくて仕方がなかった。
確かに、にやにやしちゃってたと思うけど、わざわざ言わなくてもいいのに!
「それで、それが、アララギ博士からのポケモン?」
「そうよ、この中に私たちのポケモンがいるんだって!」
「ふーん」
いつも冷静を装っているチェレンが、珍しくそわそわしながら青い箱を何度も見る。
「なんだ、チェレンも楽しみなんじゃない」
「いいじゃないか! 僕だってトレーナーになるのは夢だったんだから」
むきになったチェレンが赤くなったのがおかしくて、トウコはクスリと笑った。
それにしても、もう1人が来ない。
時計を見ると、やっぱり約束の時間は過ぎていた。
「ねぇ、ベルは、まだかな?」
早くポケモンを見たいけれど……。
幼なじみのベルはいつもマイペース。
きっと今日も遅れてやってくるとは思っていたけれど。
「ベルは、またか……」
チェレンがため息をついたとき、インターフォンのチャイムが鳴った。
「あ、来たみたい」
ドタドタと階段を急いで駆け上がる足音がして、ベルは息を切らして部屋に入ってきた。
「あのう、ごめんね。また遅くなっちゃった……」
「全く……、君がマイペースなのは10年も前から知ってるけれど、今日はアララギ博士からポケモンがもらえる大事な日だっていうのに」
チェレンが説教混じりに言う。
「はーい、ごめんなさい。トウコ、チェレン」
「もう、ベルってば! ほら、早く開けようよ」
「うん! で、ポケモンはどこ?」
「この青い箱の中だよ、いくよ」
トウコは緑のリボンを勢いよく引っぱった。
シュルシュルと結び目がほどけて、リボンが床に落ちる。
綺麗な青いボックスをベルとチェレンが開けると、3つのモンスターボールが姿を現した。
光沢のある赤い布の上にのった、3つのボールとメッセージカード。
メッセージはアララギ博士からだった。
【この手紙と一緒に3匹のポケモンを届けます。3人で仲良く選んでね】と書かれている。
ボールの中からは、3匹のポケモンが3人を見つめていた。
「これが、私たちのポケモン」
「すごーい!かわいい」
「……で、誰から選ぼうか?」
チェレンの言葉に3人は黙った。
そうだ、選ばなきゃ。
でも、誰から選べばいいのだろう。
こんなことで喧嘩しても仕方がないし……。
トウコが2人の様子をうかがっていると、ベルが言った。
「そうだ! トウコの家に届いたんだし、はじめに選のはやっぱりトウコが良いよ」
「え、いいの?」
「そうだね。ベルの意見に賛成だ。トウコ、君が選ぶべきだ」
じゃんけんにでもしようかと思っていただけに、2人に譲られて、なんだか恥ずかしいような、照れくさいような気持ちになった。
「ほら、はやく」
「うん」
2人にせかされて、トウコは3つのボールをのぞきこんだ。
緑と赤と青のポケモン。
実は、はじめてみた時にすでに目があっているポケモンがいた。
トウコは迷わず1つのボールを選んだ。
「私、この子がいいな」
緑のポケモン、ツタージャ。
3匹の中でも、トウコのことをじぃっと見つめてきたポケモン。
草ポケモンだよね、葉っぱみたいな緑のしっぽがかわいい。
「じゃあ、あたしはこのポケモンにする!はじめから、この子がいいと思ってたの!チェレンはこの子ね!」
ベルが手に取ったのは、水のポケモン、ミジュマルだ。
ぬいぐるみみたいなポケモンだ。
ベルが好きそうだとは思った。
「全く、どうして君が勝手に僕のポケモンを決めちゃうのさ……?まぁ最初からポカブが欲しかったけど」
チェレンのポケモンは炎のポケモン、ポカブだ。
そう言いながら、嬉しそう。
そういえば、はじめにもらうなら炎ポケモンがいいって言ってたっけ?
みんなそれぞれ自分が欲しかったポケモンに出会えたようだった。
不思議とはじめから、誰から選んだってこのポケモンだって決まっていたような気がする。
モンスターボールからのぞく、ツタージャの顔を見ていると、早く目の前でみて、触ってみたい気持ちがトウコの中で溢れてきた。
「ねぇねぇ!早くボールから出してみない?」
トウコがそわそわしながら言ったときには、2人もそのつもりみたいだった。
「そうだな。よーし!」
「じゃあ一緒にね!せーの!」
ベルのかけ声と共に、3つのボールが投げられた。
床に当たったモンスターボールが白い煙を上げて、ツタージャ、ミジュマル、ポカブが飛び出してきた。
みんな小さくてかわいい!
ツタージャはボールから出るなり、トウコにてくてくと駆け寄ってきた。
「タジャ!」
これから一緒に旅をするパートナー。
笑ってくれてるのがうれしくて、トウコはツタージャを抱きしめた。
やわらかい、緑のにおいがした。
「よろしくね!ツタージャ!」
作品名:黒と白の狭間でみつけたもの (1) 作家名:アズール湊