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『情報屋の、戯言とも呼ぶべき愛の言葉』

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一目ぼれ?あぁ、言われてみればそうかもしれないね。
退屈に感じていた「日常」の中で、まさにシズちゃんは奇跡だった。
面白い男だと思ったよ。いつだって燃えるような目をしててさ。
理解し難い怒りに、全身を焼かれてるようだった。
最初にシズちゃんのことを奇跡だって言ったのは新羅だったかな。
あくまで、知的好奇心の対象としてらしいけど。

「壊しても壊しても、驚くほどの速さで回復して、尚且つ進化しているんだよ。
 なんとか検査だけでもさせてくれないかと、私は哀訴嘆願の思いなんだけどね。」

「男の身体なんか、何も面白くなさそうだけど。」

「もちろん、知的好奇心の対象としての興味さ。僕が性的な意味でも興味がある身体は
彼女のものだけだからね。」

そこからはいつもの、【首なしの君】への愛の羅列だよ。
まさに、首なしに首ったけ。ハハッ、くだらなすぎて逆に笑えるね。
俺も最初は、シズちゃんに対してただ面白そうだなってくらいにしか
思ってなかった。
退屈な日常に、少しだけ潤いが出るくらいのものさ。
でもね、知っちゃったんだよ。
人が到底同時に持ち合わせることのないものを、シズちゃんが持っていることに。

出会った時から、シズちゃんは誰もが口を揃えて【暴力】そのものだと言った。
近づくな、関わるな、目を合わせるな。
好奇心を湛えた目をして、誰もがそう言った。
誰もが畏怖の対象として話しながらも、その目には好奇心を湛えている。
怖いもの見たさって言うのかな、散々わめきながらホラー映画を見たりするのと同じさ。
あぁ、哀れな怪物。あれに比べれば、自分はどんなにか幸せだろう。
人は、自分自身を誰かと比べることによって優越感を得て幸せに浸る。
残酷な生き物だよね。だからこそ、面白いんだけど。
酷い言い様だって?まさか、これも愛情表現の一種だよ。
俺は、人全てを愛しているからね。
あぁ、一人を除いてだけど。

毎日毎日、同じような喧嘩を繰り返すシズちゃんに・・・・まぁ、本人が望んでしている
喧嘩ではないんだけどね。
これも人の好奇心の一種だろうけど、恐怖の対象に挑んでみたい、自分の力を
試したいなんて、マゾヒスティックな感情を持ち合わせている奴もいるってこと。
かかってくる奴全部投げ飛ばしてなぎ倒してたよ。
まぁその内の何割かは、俺が仕向けたんだけどさ。
もしかしたら、誰か一人くらいはシズちゃんに致命傷を負わせられるような奴が
いるかもしれないじゃない?
・・・そんな奴いなかったけどね。なんせ物理的な攻撃は通じないんだから。
人間じゃない・・・・まさに、怪物だよ。

しばらくは眺めて楽しめたんだけど、段々飽きてきちゃったんだよねぇ。
ずーっと同じことの繰り返し、まさに「日常」だよ。
面白い男だとは思ったし、常軌を逸しているとは思ったけど、ただそれだけかって。
結局、俺は満たされないんだよ何であろうと。
そう思い始めた時だった。
帰り道に偶然、シズちゃんを見かけたんだ。
その日もシズちゃんは派手に喧嘩してて、飽きた俺はさっさと帰って街をふらついてた。
その時に偶然、ほんとに偶然見かけたんだ。
小雨の中傘もささずにぼーっと立ってるシズちゃんを。
服はボロボロ、額から血を流して、何もない空き地を眺めてる。
あぁ、ついに頭がおかしくなったのかと思って立ち去ろうとした時、シズちゃんに傘を差し出した奴がいた。
へぇ・・・・めずらしいこともあるもんだ。
その男は、何の感情も無い目をして、傘をシズちゃんに傾けながら二言三言話していた。
距離があったからよくは聞き取れなかったけど。

「兄貴・・・・帰ろう・・・」

確かに、そう言った。
俄然興味が湧いたよ、あの怪物の弟!!!
同じように怪物なのか、それともまったく違う、つまらない人間か。
少し距離を縮めて、じっくり観察してやろうと思った。
こんなチャンス滅多に無い。
可哀想な怪物とその肉親なんて、興味を惹かれるだろ?
でもさ、足が止まっちゃったんだよ。

「もういっそ・・・消えてなくなりてぇなぁ・・・・」

頬に零れた雫。静かに落とされた言葉。

なんだこれ。なんだこれ。誰だこれ。誰だよ、おいお前は誰だ。
なんだよ。お前みたいな怪物が何を言ってるんだ?消える?
ハハッ!笑わせる。平和島静雄が何を言っているんだッ!
おい怪物!そんなんじゃないだろ!?お前がそんな顔するわけない!

正直焦ったよ、あの時はね。
目の前が真っ暗になってさ。あの時シズちゃんが泣いてたのか、それともただの
雨粒だったのかはわかないけど・・・俺には泣いてるように見えたんだ。
絶望した。あの怪物が、「悲しい」とか「痛い」なんていう心を持ってたなんてね。
暴力のみで、支配されていて欲しかった。
だって、そんな、綺麗なもの、俺には、何一つ、残っちゃいないのに。
同じだって、思っていたのに。

どこかで、分かっていたのかもしれない。
興味を無くしたなんて言い訳を自分にして、逃げ出したのかもしれない。
手に入れるためなら、何だって出来る気がしてたんだ。
俺だけの怪物。ボロボロになっていくその様を、ずっと眺めていたかった。
愛してる?愛してた?
サヨウナラ。愛しい怪物。
引き裂いて、塗りつぶして、俺好みのオモチャにしてあげる。
そうすれば、ずっと一緒さ。
その血も肉も骨も髪も体細胞の全てまで。
噛み砕いて飲み込んで、そうすればいつか、同じものになれるよね?
楽しみだね?そうだろう?笑いが止まらないのに、目の前が霞むのは
どうしてだろうね?
あぁ、愛しい怪物。さっさと俺を殺しにおいで。
いつだって、どこにいたって、愛してるよ。
大ッキライだよ、俺だけのモンスター。


END